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嘘日記

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全部嘘で日記を書いています。 日記をまともに書いてこなかったので、体裁として日記になっていない部分が弱点です。 1000文字程度の短いストーリー集としてお楽しみ下さい。
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2023年3月の記事一覧

嘘日記 3/31 順位

嘘日記 3/31 順位

異世界に移動した気がする。
昨日までいた世界といろんなものの順位が変わっている。
テレビを見ていたら日本人が好きなものランキング10選なんてものが紹介されていてそれに気づいた。

好きな食べ物、1位 カレーライス。
あり得ない。
食材を煮込んでグチャグチャの吐瀉物に似た液体をあまつさえシロアリの卵が如き白米にかけるカレーなど私の世界では1024位が席の山だろう。
私のいた世界では日本人の不動の1位

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嘘日記 3/30 マッチ

嘘日記 3/30 マッチ

マッチを買った。
立ち寄った100円均一にて、レジ横に並んだレトロな紙箱のマッチを。
ライターをはじめ、現代では火をつける器具なんてごまんとある。
その中でマッチが生き延びている理由の一端に、そのローテクさやその不便さが想起させるノスタルジーがあると思う。
紙箱の側薬に、マッチの先の投薬を擦り付ける。
その面倒さに人は惹かれるのだろう。
ボタンひとつで火がつく現代だからこそ、その火と出会うまでの時

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嘘日記 3/29 愛情

嘘日記 3/29 愛情

自己評価だが私は他の人より愛情が深いと思っている。
それもそのはず愛着や執着する力が人一倍強いのだ。
小学生の頃に手に入れたシャープペンシルを20年以上使い続けているし、ビックリマンシールは新作が発売される度にコンプリートするまで満足できない。
そんな人間なのだ。
親からも幼い頃より私の持つ尋常ならざる愛情に苦言を呈されてきた。
「悲しい男よ、誰よりも愛深きが故に」
丁度サウザーと同じことを言われ

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嘘日記 3/28 夜が怖い

嘘日記 3/28 夜が怖い

この日記を書き終えて、24時を迎えるまでの数時間。
私はそれがとても怖い。
今日と明日の狭間に、明日を迎え入れるように強要されているようでその時間がどうしようもなく苦痛なのだ。
明日生きることを求めているのは他でもない私の体なのかもしれないが、私の心は今この瞬間にでも体が朽ち果てバラバラになり、山野にその塵芥が降り注ぐ事を望んでいる。
そんな肉体と精神の乖離がこの夜のアンバランスさを強く縁取ってい

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嘘日記 3/27 ギター

嘘日記 3/27 ギター

ギターを買った。
会社帰りの繁華街、ひっそりと喧騒に紛れていた小さな楽器屋のショーケースの赤いギターと目があった。
テレキャスタータイプの真っ赤なギターに私は一目で恋に落ちた。
普段なら楽器屋なんて異世界だと思っているのだが、今日はまるで常連のような軽い足取りで入店。
ツイストパーマに無精髭を蓄えた如何にも拘りがありそうな店員が暇を持て余したのか、一見の私に声をかけてくれた。
ありがたい。
こうい

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嘘日記 3/26 WBC

今日、初めてWBCの決勝戦を見た。
休みを利用して平日の昼間からビールを啜りながら、噛み締めるように見た。
最終回、大谷がトラウトを三振に打ち取ったシーンは自然と涙が出るような、そんな神々しさを感じた。
試合観戦後、私はもう一度冷やしたビールをあおった。
これは私から夢を見せてくれた侍ジャパンへの感謝のビールかけ、私なりのシャンパンファイトだ。
さて、では何故3/22に決勝戦があったWBCの決勝を

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嘘日記 3/25 破局

嘘日記 3/25 破局

交際してもう四年になろうかという女と今日、破局した。
お互いに休日だということで、ちょっといいレストランまで出掛けてみたのだそれが間違いだった。
彼女は何故か今日、プロポーズをされると思っていたようだ。
交際して四年も経てばあり得ない話でもないし、私も彼女もいい歳だ。
まったくあり得ない話ではないだろう。
しかし、残念ながら私はそんな用意などしていない。
いつか一緒になろうかと思ってはいたもののズ

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嘘日記 3/24 公園にて

嘘日記 3/24 公園にて

納得と理解は異なる感情だ。
今日、私は納得はしたものの、理解には及ばないような、そんな感情を覚えた。
それは私が放課後、クラスメイトと共に公園での児戯に興じようとした折に起こった。
クラスメイトの中でもとりわけやんちゃで、あばれはっちゃくというあだ名を欲しいままにするケン坊が、公園に着いた瞬間に砂場に向かってビニール製の安価そうなボロボロのランドセルを投げ捨て高らかに宣言した。
ドロケイをやるぞ!

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嘘日記 3/23 料理

嘘日記 3/23 料理

初めて料理をした。
私は、男子厨房に入らず、と育てられたため調理の技能が一切成長していない。
男子厨房に入らずの本当の意味は他人の領分を侵すなということなのだが、幼い私は文字の通り厨房に近付かなかった。
家庭科の授業は全て見学し、ついでにプールの授業も全て見学した。
そうして出来上がったのがもやし炒めもまともに作れぬもやしっこであり、今の私である。
こんな大人になるくらいならば、せめてプールの授業

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嘘日記 3/22 絵本

嘘日記 3/22 絵本

久々に絵本を読んだ。
読んだと言っても子育て中の友人宅に遊びに行き、机の上に置かれた絵本にちょっとばかし目を通しただけだが。
最近よく見かける所謂大人向けの絵本ではなく、子供向け絵本、つまりガチガキ向けだ。
本の内容は寓話のようなもので、イソップ物語を改変したようなよくある内容だった。
しかし、読み進める度に覚える違和感があった。
なんとなく物語中の倫理観に置いていかれているような、そんな感覚。

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嘘日記 3/21 祝日

嘘日記 3/21 祝日

世間は今日、祝日らしい。
なるほど仕事が休みなわけだ。
一日家でゴロゴロするのもなかなか居心地が悪いので、午前中から家を出てちょっとした外出をしてみることにした。
朝の九時、普段は人が通らないような細い裏道から公民館を目指す。
幼少期はこのように知らない道を選んで進んだものだ。
今となれば笑い話だが、近所にも前人未踏の何処かがあると幼い私は信じていた。
勿論、今はその幼さを理解しているが、改めてこ

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嘘日記 3/20 職務質問

嘘日記 3/20 職務質問

今日もまた職務質問をされなかった。
生まれてから一度も職務質問をされたことがない。
私が人畜無害な可愛らしい見た目をしているからか、街を警邏する警官には私の内に秘めた凶暴性は看過されていないようだ。
いつ職務質問をされてもいいように、私は常になめ猫の免許証を財布に忍ばせている。
それも又吉ではない。
ミケ子の免許証だ。
身分証を出す際に、一度間違えたふりをして見せつけてみたいものだ。
あっ、これ違

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嘘日記 3/19 美容院にて

嘘日記 3/19 美容院にて

髪を切った。
長く鬱陶しかったパーマのかかった髪とは今日、そこそこの手切金でお別れできた。
しかし、美容院に行ったのは実に2ヶ月ぶりくらいだろうか。
来月にはまた来てくださいね、という美容師からの言葉を毎度無視し続けているが、その頻度で毎度毎度パーマとカットを頼んでいたら私は破産するだろう。
毎月、2万。
それを12ヶ月。
中古車だ。
スズキの軽自動車が買える。
髪の手入れとは恐ろしいものだ。

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嘘日記 3/18 唐揚げ店にて

嘘日記 3/18 唐揚げ店にて

一時乱立した唐揚げ店というものに訪れてみた。
起業するのに対して費用がかからない点や鶏肉が冷凍可能で在庫管理しやすい点、情勢的にテイクアウトブームが起こったことなどから多くのサラリーマンがセカンドキャリアに飛びついたその唐揚げ店だが、最近では徐々にその店舗数を減らしてきている。
淘汰は始まってきているのだ。
そんななか、今日訪れた店もそれに違わず、そのブーム時にオープンした店だが未だに潰れることな

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