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嘘日記 3/18 唐揚げ店にて

一時乱立した唐揚げ店というものに訪れてみた。
起業するのに対して費用がかからない点や鶏肉が冷凍可能で在庫管理しやすい点、情勢的にテイクアウトブームが起こったことなどから多くのサラリーマンがセカンドキャリアに飛びついたその唐揚げ店だが、最近では徐々にその店舗数を減らしてきている。
淘汰は始まってきているのだ。
そんななか、今日訪れた店もそれに違わず、そのブーム時にオープンした店だが未だに潰れることなく、うまく世を渡っている。
出せば売れる状態だった数年前とは違い、確実なファンの獲得がない限り今の唐揚げ店はそう上手く生き残ることはできないだろう。
つまり、この店は誰かを未だに魅了しているのだ。
この店も数席のイートイン用の座席があるのみで基本的にはテイクアウトをメインに営業している。
さて、その実力は如何なものだろうか。
レジ付近には揚げたてであろう数種の唐揚げがガラスケースの中で網の上に乗せられ、余計な油を切られている。
酸化した油分はどうしても風味が劣るからだろう。
細やかだが確実な気遣いだ。
テイクアウトメインなら持ち帰って食べるまでの時間にまで考慮するのだなと舌を巻いた。
店員に声をかけて注文してみる。
その唐揚げの名は「ふんわりジューシーモモ唐」。
枕詞が余計だ。
何故、注文する時もふんわりジューシーと言わなければならないのだろう。
いい大人の男がふんわりだ、ジューシーだ、などと気恥ずかしくてなかなか言えない。
しかし、正しくオーダーするためだ。
恥ずかしさを飲み込んで店員に注文する。
ふんわりジューシーモモ唐を6つください。
指を6本立ててふんわりジューシーだと宣う私はきっと見ていられない姿だっただろう。
店員が注文を繰り返す。
「モモ唐が6つですね、袋ご利用ですか」
耳を疑った。
ふんわりジューシーはどこに行ったのだ。
店が自ら自称するふんわりジューシーさは簡単に省略されていいのだろうか。
面食らってしまったが、私の後ろにも客が会計を待っている。
やはり人気な店なのだ。
円滑にレジとのやり取りを終わらせるため、私は抱いた違和感を飲み込んで会計を続けた。
720円。
唐揚げ6つとしてはそこそこな値段だが、そこは専門店。
飲み込もう。
1000円を渡し、お釣りは全部地震関係の募金箱に、レシートは無造作に上着のポケットへ突っ込んだ。
紙袋に入れられた唐揚げは、さらにビニール袋に入れられて私の手元へ。
過剰包装に思わず変な笑顔で受け取ってしまったがこれでタスクコンプリートである。
はやる気持ちが抑えきれず、家への帰り道、1つ2つ摘んで見た。
なるほど、こりゃうまい。
ふんわりとジューシーで肉汁が上手く衣で閉じ込められている。
一つ単価いくらだったんだろうか、と計算すれば早いのだがなんとなく先ほどもらったレシートを取り出してみた。
そこに記載されていたのは、
モモ唐 @120×6 ¥720
ふっくらジューシーを略すな。
二度と行かない。

どりゃあ!