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嘘日記 3/25 破局

交際してもう四年になろうかという女と今日、破局した。
お互いに休日だということで、ちょっといいレストランまで出掛けてみたのだそれが間違いだった。
彼女は何故か今日、プロポーズをされると思っていたようだ。
交際して四年も経てばあり得ない話でもないし、私も彼女もいい歳だ。
まったくあり得ない話ではないだろう。
しかし、残念ながら私はそんな用意などしていない。
いつか一緒になろうかと思ってはいたもののズルズルと先延ばしにしていて、少なくとも私の中では今日ではなかったのだ。
いつもより妙にめかし込んだ彼女が気になったものの、普通に夕食を終え、普通にコンビニに寄ってウェットティッシュを買って、普通に彼女を家まで送り届けた。
車から降りる時、彼女は言った。
いつになったら覚悟が決まるのか、と。
その言葉にカチンときた私は勝手な想像で誰かの最良のタイミングを決めるなと彼女を強引に窘めた。
彼女は思ってもなかったのだろう、私の反撃になんと泣き出してしまった。
さすがの私もこれはまずい事をしたと思い、急いで車から降りて彼女の肩に手をやった。
近々だから、と適当な間に合わせで彼女を慰めようとした。
彼女はそんな私の軽率な発言に言質をとってやったという表情で顔を上げ、私に言った。
絶対だからね、そろそろプロポーズしてくれないと私死んじゃうからね。
その言葉を聞いた瞬間、スッと何かが私の中から抜けていくようなそんな感覚がした。
21g程度の小さな何かが私から消え失せた、そんな感覚だ。
彼女の肩から手を退け、車に乗り込む。
助手席の窓を開け彼女に言ってやった。
勝手に自分の価値を判断するな!
私はその場から逃げるように車を発進させた。
これが私から彼女への最後の言葉であり、彼女への別れの言葉だ。
帰宅するなり彼女の連絡先を削除し、彼女からの連絡も拒否した。
彼女が言ったプロポーズしてくれなければ死ぬ、という発言が私はどうしても許せなかった。
なぜ彼女の死が私の中で大きな損失かのように彼女は振る舞うのか。
なぜ私がその損失を回避するように動くと判断したのか。
実際、彼女が死にそうだったら私はどうにかして助けるだろう、もしくは助けようとするだろう。
だが、そんな想いまで盾にして何かを得ようと死を口にするのならばもう知らない。
それを口にしてしまったら全ての善意が彼女を守る盾になってしまう。
だから私は彼女から離れる。
死にたくば、勝手に、どうか私の知らないところで。
その善意の盾をふるって生き抜いてくれ。

どりゃあ!