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フミオ劇場  16話『オッさん不倫逃避行』

「ワシがおらんかったら『私、生きていけない』て言われたんやぞ。そんな奴をほっとけるか?」


 フミオが娘に
 不倫を問い詰められた時の言葉だ。



「パパの様子がおかしいんよ。女やと思うわ」

 母から電話があったのが数日前。

 樹里は大阪市内で一人暮らし中。実家の様子が分からずとにかく驚いた。

 だが、今ひとつピンと来ない。 
 フミオは【飲む・打つ・買う】なら【打つ】専門。

 下戸だから、スナックや新地のクラブにも行かない。そもそも女に使える金があるなら、博打へGOだろう。


 しかし、離婚まで仄めかしてるというから、放っておくわけにもいかず、ファミレスにフミオを呼び出した。


 まさかのド本気だった。


 娘からの尋問に悪気の【ワ】も無く
 ペラペラスラスラ
 加えて赤裸々に答える。

 何度も絶句しながら聞いていたら、冒頭のセリフが飛び出した。


 「だからな、ワシがおらんかったら、あかんねんてっ」


 フミオは、ちょっとした世間話を終えた感じで、美味しそうにオレンジジュースを飲む。

 樹里は我を忘れ、ついでに場所も忘れた。

 「はああ? 何考えてん! アホちゃうん? そんなん言われて浮かれてるわけ? その女も、ようそんな事言うな! 最っ低! ボケやな!」

 自分の旦那を亡くし、まだ日が経ってないという相手にも怒りが込み上げた。


 店内が水を打った様にしんとなる。

 
 オッさんと20代半ばの女が、別の女のことで揉めている。誰も親子の会話とは思わない。

〈不倫からの三角関係?〉
〈若い女、めっちゃ怒ってるやん〉
〈やるなぁオッさん〉


 フミオは首をすくめた。

「怖いな〜お前は。だからワシお前には、知られたくなかったんや」

 イタズラがバレた子供かワレボケ!

 もう一度、怒鳴りたかったが堪えた。いまや店内全員の耳がダンボ。

「ほんで? どないするつもりなん? 子供2人もおってやぁ、私ら家族どうなんのよ」

 もはや誰と誰の話で、二人の関係性はどないなことになってんのか、ダンボたちは大いに困惑した。


「それや。ワシな、お前らを生んだん間違いやったわ」


 怒り驚き悲しみ呆れ
 感情がミルフィーユみたいに重なって
 体が重くなった。


 どれだけ解放されたら
 こんな人になれるんやろか。

 なんとなく状況を理解したダンボたちは
 無言の声援を樹里に贈った(気がする)。

 それから2週間後。
 フミオは不倫相手と、東海地方のある町へ
出奔。そこではフミオの妹夫婦が、ゲームセンターやボウリング場といった娯楽施設を手広く展開していたのだ。


「三枝子姉さんと二人で、こっち来たら? うちの人もフミオ兄さんが働いてくれるんやったら、住むとこ準備するって言ってくれたよ」

 もう50にもなる兄が、不倫で揉めてると知り手を差し伸べた。大阪の不倫相手と距離的に離れさせて、兄と兄嫁に心機一転やり直して欲しかったのだ。

 だが信子の
 思いやりは→思い切り悪用される。

 フミオは、妻の署名印鑑を捏造して離婚届をひとりで勝手に提出。スピーディーに、いともあっさり家族を捨てた。(後日、自宅預貯金はすべて三枝子の手に渡す)


【ピンポーン】
「はあい」
 信子がドアを開ける

 !⊆▲-#●¢+⁂¢%〻♂(信子の気持ち)


 兄嫁の三枝子が一緒だとばかり思っていた信子は、玄関先でめまいに襲われる。

 フミオと知らない女が立っていた。
 すぐに不倫相手だと察した信子は唸った。

「兄ちゃん! もおこんなん話が違うわ〜! うち困るし無理、無理。やめてよぉも〜」

 だが兄ちゃんはいま人生の幸せ絶頂期
 ベリーハッスル中だ。

「ワシら二人でちゃんと働くから! この恩は一生忘れへん、信子頼むわ! こいつも『なんでもして働きます』言うとるんや。そやな?」

 フミオの隣で
 不倫相手の久美子が頭を下げた。

 信子は、難儀な事になったと後悔したが、家財道具まで運んできている二人を今更追い返すことは出来なかった。


 それから30数年が経過。今もフミオは久美子と仲良くこの地で暮らす。

 一生許さないと思った樹里の怒りもいつしか風化した。

 フミオと久美子の時間が、樹里たち家族4人で過ごした時間を超えたのが大きい。

【時間薬】とは、よく言ったものだ。

 ただ、こっぴどい仕打ちをされた母の恨みに 
時間薬は効かない。子供とはまた違った類いのマグマだろう。


 後年、樹里が自分の子を連れて訪ねた時、相好を崩して孫と遊ぶ二人を見て、不意に頭に浮かぶことがあった。

ーーフミオにとって久美子は初めての彼女?

 フミオの親は、博打放蕩の息子を落ち着かせるためフミオ23の時、見合い結婚をさせた。 
 翌年には樹里が生まれる。

 学生時代から、彼女はひとりもいなかった。

 信子も、こんなに女性に尽くす兄の姿は初めて見たとよく話していた。

 確信した。
 初めての不倫が、初めての彼女だ。

 結婚→そして父になる→初彼女→離婚→かけ落ち→大恋愛

 やってることが逆で
 ついでに順番もおかしい人生である。



              つづく

🟣その後🟣

 不倫相手の久美子さんは、逃避行後しっかり小姑からの洗礼を受けました。

 信子叔母さんは、そうする事で兄嫁に対する呵責の念を放出したかったのかも知れません。二人を受け入れた形になって義姉さんに申し訳なかったと、私によく語ってくれてました。

 数年前、天国へと旅立った叔母さんは、フミオ後半人生の恩人。本当に感謝です。

 紫式部の時代から、いやもっと前から。男女(+アルファ)の織りなす恋愛ドラマって不動の産物です。恋愛も会議室で起きてるんじゃない、現場で起きている、今回はそんな話でした。

 〈お前らを生んだん間違いやった〉と言ったのも、親に言われるがまま急ぎ結婚し、子を持ったのは、人生として間違いだと思ったと。
そういう意味なら理解出来ます。

 ただ、話す相手……間違えてますよ。



 さて、今回も読んでくださりありがとうございました。

 フミオ劇場は、あと4回で(ネタはまだまだあるのですがて、まだあるんかい。笑)
一旦終わります。

 引き続きよろしくお願いします。

 また画像ばかり延々貼りますが、もしお時間あれは1話からもご覧になってください。

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