見出し画像

「消滅可能性自治体」と「集落のミライズ」を題材に気仙沼市の未来を考える|地域視考

春とも夏とも分からない混沌とした気候に見舞われた4月の日本に、「消滅可能性自治体」の言葉が飛び交ったのは記憶に新しい。2020年から2050年までの30年間において、若年女性人口が50%以上減少すると見られる自治体を指して、人口戦略会議(議長:三村明夫日本商工会議所名誉会頭、副議長:増田寛也日本郵政株式会社社長)が「消滅可能性自治体」と謳ったためである。

常日頃より妙ちきりんな提言を行い、その仕事振りが芳しくない日本商工会議所、その名誉会頭。そして岩手県知事として大きな失敗を重ねてその後の県経済に禍根を残して去った増田寛也。その両氏が議長、副議長を務める組織の提言をどれほど真に受けて良いかは議論があると思われるが、全国の自治体の首長が各々の反応を見せたのは事実である。

もっとも人口動態というものは劇的に変化するものではなく、ある程度将来の見通しが立つとされるものである。少子高齢化が進んでいるのであれば、その状態はそうそう変わらない。敢えて「消滅可能性自治体」などと謳われずとも、多くの地方の自治体が消滅していくのは最早変えようのない事実でしかない。その意味では、目立ちたがりのご老体が分かり切った話を大々的に謳うパフォーマンスをしたといった見方もできなくはないだろう。

いずれにしても多くの地方の自治体はこの先消滅していく。その事実はそろそろ日本全体で受け止めなければならない。そして消滅していく事実を受け入れた上で、何を行っていかなければならないのかを真摯に考える必要があるだろう。つまり国としてはどのようにソフトランディングさせる形で地方の自治体を閉じていくかを考え、地方に住んでいる人々は、この先の生き方をどのように描くかを考える必要ある。

そんな折、北陸農政部から興味深い資料が出された。「集落のミライズを描いてみよう!~人×ICTではじめる農村地域づくり~」と題した資料である。多くの地方の中でもとくに消滅可能性が高い中山間地の集落。そうした集落をどのように未来に継いでいくか、その方策や事例をまとめた資料である。制作には、「撤退の農村計画―過疎地域からはじまる戦略的再編(以下リンクは広告)」で知られる林直樹氏が関わっている。

今回の「地域視考」では、。「集落のミライズを描いてみよう!~人×ICTではじめる農村地域づくり~」を題材に気仙沼市を農村地域づくりについて考えていきたいと思う。なお、気仙沼市は農村というわけでない。一方で中山間地の集落と言っても過言ではないエリアが少なくない。また、漁村も中山間地の集落と変わらない程度には継承を考えていかないとならない消滅可能性の高い地域である。そうした地域の今後を考えていくのは、一定の価値があると感じる。


「集落のミライズ」は消滅可能性自治体の未来を考える上で重要な資料

集落のミライズを描いてみよう!~人×ICTではじめる農村地域づくり~」は、ざっくり説明すれば、ICT(情報通信技術)の力を借りながら、少ないリソースで集落を未来に継承していく方法を考えていくための資料である。集落のタイプを「機能維持集落」「存続集落」「無住集落」の3タイプに分けて、それぞれ「なりわい」「暮らし」「地域資源」の3種類の観点で整理し、未来継承のために必要な方策を記している。

本資料は、診断・事例・ミライズの3パートに分かれており、各々が住んでいる集落がどの分類にあたるかを診断し、分類ごとの事例を知ることで今後の継承の道を模索できるようになっている。またミライズのテンプレートシートとその作成方法が載っているため、各々の住んでいる集落の特性や状況を整理した上で、どのように未来に繋いでいくかを考えられるようになっている。自治体やまちづくり・地域づくりのワークショップなどで使うと良いかもしれない。

本資料の中でとくに良かったのは、最新技術カタログとICTを活用した集落モデルである。近年の技術革新は目を見張るもので、毎年のように新たな技術が生まれては、我々の生活を豊かなものへと変えていっている。とりわけ昨年から話題になっているAIの発展は凄まじいものがある。何せ簡単な調べ物をしたいとき、あたかも専門家から回答を得るかのような専門的な回答を獲得できる(誤った情報がもたらされる可能性はある)。

一方で、新たな技術によって生活を豊かにできるようになっているにもかかわらず、その恩恵を受けられているかは疑わしい。なぜだろうか。第一に、技術で利便性を向上させられる事実を知らない点が挙げられる。多くの技術は、技術への関心・感度が高い人々にとっては既知の情報となるが、そうでない人々にとっては、中々知るところとならない。

たとえば、自治体の観光施策において「観光客が道に迷わないようにナビを用意すべきだ」などといった話が未だに交わされる地方があるが、昨今の観光客の多くはGoogleマップによるナビの恩恵を得ている。言語も同様である。昨今はAIが音声や文章をたちまち翻訳してくれるため、以前ほどには外国語対応にかける労力を必要としていない。しかしながら、それらの事実を知らないと、不要となっているにもかかわらず、対応に費用や時間、労力をかけてしまう。

第二に、技術に対する何となしの不安を抱えている点が挙げられる。つまり本当に技術が利便性を向上させてくれるのか、その精度が確かなのか、何かトラブルが起きるのでないかといった不安や利用にあたって大きな費用を要するのでないかといった不安である。どちらも多くの場合は知識不足が原因となっているため、知る努力を本人がすれば解消される。使ってみないと最終的な請求額が分からない従量課金制のサービスを除けば、知れば不安を抱えずに済む話である。従量課金制のサービスにしても、情報を集めて、利用量を予測すれば、想定外に高額な支払いを要するまでに至らないケースが多い。

本資料の最新技術カタログでは、実際に中山間地の集落においてどのような技術が使えそうか、その例が掲載されている。ありがたいのは、おおよその費用感についても載っているである。これを読めば、どれくらいの予算を見込めば、どれだけの利便性を得られるのかが分かるため、とくにICTに疎い中高年にとって重宝する情報になると思われる。また、ICTを活用した集落モデルでは、実際にそれらのICTをどのように活用できるのかを図解している。使用イメージの有無は、想像力や課題解決力に大きく左右する。これを読めば、現在集落で抱えている課題に対して、現実的な解決策をイメージしやすくなると思われる。

消滅可能性自治体に選ばれた気仙沼市と農村RMOの必要性

集落のミライズを描いてみよう!~人×ICTではじめる農村地域づくり~」の中で、筆者が関心を持ったのは、ICTを活用した集落モデルの中で提案されている農村型地域運営組織(農村RMO)である。RMOとは地域運営組織(Region Management Organization)を指し、地域において生活支援機能を備える事業主体を指す。ざっくりと言えば、高齢者交流や見守りなどの事業を担っている組織であり、どの地域においても存在している自治体から社会福祉事業を受託している法人・団体がイメージとして挙げられる。

出典:農林水産省「農村RMOとは」

そして農村RMOとは、農林水産省による上記資料で示されるように、地域に存在している様々な法人・団体によって形成された、地域の将来ビジョンに基づく取り組みを実施する協議会を指す。「集落のミライズを描いてみよう!~人×ICTではじめる農村地域づくり~」のICTを活用した集落モデルにおいては、この協議会にICTの導入・保守・運用を担う技術者(技術組織)が参加する形がイメージされている。

気仙沼市の農地プランから見る気仙沼市農業の先行き不透明感

気仙沼市が公開している「人・農地プランについて」によると、現在気仙沼市内において農地を保有・運用・経営している人々(世帯)の多くは高齢者(70代以上)であり、今後の経営意向がある農地の面積は、どの地域においても現在と比較して著しく小規模になる見通しである。地域によっては現在の10分の1以下になる見通しも見られている。翻って、それだけ高齢化がのっぴきならないほどに進んでいると言える。

気仙沼市は、水産業を基幹産業とし、水産業を中心とした産業によって雇用(所得)も形成されている自治体である。その一方で、決して農業が盛んでないわけではない。気仙沼市の総土地面積に対して、田畑が5%を占めている。総土地面積から林野面積を除いた面積の内、田畑が占める面積は15%になると見られ、恐らく市民が思っているよりも農業に利用されている土地が少なくない。

ここから先は

1,428字

¥ 100

この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

皆様のサポートのお陰で運営を続けられております。今後もぜひサポートをいただけますようお願い申し上げます。