見出し画像

【読書ノート】22「小国主義―日本の近代を読みなおす」藤原彰

図書館で偶然見かけて手に取った本だがとても良かった。著者はすでに亡くなられた有名な護憲派の歴史学者で本著は1999年出版で少し古いが「小国主義」を包括的に述べた本は他にないようである。

「小国主義」といえば石橋湛山が有名でいくつか本が出ているが、本書は明治の岩倉使節団から始まり、植木枝盛の憲法草案、三浦鉄太郎、石橋湛山、大正デモクラシーの小日本国主義、そして日本国憲法などを通じて近代の小国主義の歴史を述べており、副題の通り「日本の近代を読みなおす」内容となっている。

明治憲法発布前に書かれた小国主義の起源とも言える植木枝盛の憲法草案が憲法研究会草案を通して日本国憲法に反映されているという事実はやはり驚き。改憲が叫ばれて久しい現在こそ、この本は多くの人に読まれるべきではないかと思う。

「中江兆民は「富国強兵」を標榜する明治政府の大国の道を痛烈に批判し、小国主義を対置させた。また当時、自由民権運動の側から出された私擬憲法、なかでも植木枝盛の「日本国々憲案」などは「自由」と「民権」を基調とした内容をもっていた。明治憲法を大国主義の憲法とすれば、植木らの民権派の憲法案は明らかに小国主義の憲法と言ってよい。」P198

「つまり、「日本国々憲案」(植木憲法草案、明治十年代の自由民権私擬憲法案、中江兆民を含む小国主義)⇒憲法研究会草案(「憲法草案要綱」)⇒マッカーサー(GHQ)草案⇒日本国憲法という一連の流れでとらえられる。もう一度端的に言えば、自由民権期の植木や兆民にみられる小国主義が、日本の大国主義の破産した敗戦後の状況の中で、憲法研究会草案(「憲法草案要綱」)を通してマッカーサー(GHQ)草案に流れ込み、それが日本国憲法へと結実した、ということになる。」

「終戦後半年余の最も激動的な時期に、国民の各方面から相次いで自主的な憲法制定の試みがなされたことは、今日では人々の知るところである。しかも、この事実はなぜか無視されたり、気がつかれなかったりしてきた。そして日本国憲法は、全く日本国民の自由な意思とは無関係の「銃剣によって」「押しつけられた」憲法であるというような説明すらなされたのである。」p190-191

「GHQの手を経たとはいえ、これまでみてきたように、そこに大国主義に代わる小国主義の歴史的水脈が、憲法研究会草案を通して日本国憲法のなかに流れ込んでいたことを確認することが、いまもっとも重要かつ必要なことである。さらにいえば、日本国憲法の戦力・戦争の放棄も、自由民権期の自主・非武装ないし軍備廃止や「小日本主義」の軍備の縮小主張の延長線上のものであり、小国主義における国際的な「信義」「道義」の強調は、日本国憲法前文の諸国民間の「公正と信義」に信頼するという理念に連なっている、といえるのである。・・日本国憲法における小国主義は敗戦を機とした外圧を介して、内発的な歴史的小国主義理念が実を結んだものと言っても良いのである。」P194-195

(2021年11月13日)


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,937件

#新書が好き

746件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?