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読書感想-「北条政子」永井路子
https://bookmeter.com/books/17056596
600ページ近く、歯ごたえのある小説だった。
「炎環」のほうが長さと構成の両面で読みやすかったと思う。ただ、歴史に翻弄された一人の人生に迫ってゆく重みは、こちらのほうが断然味わえる。
最後に書いたが、「もう一人の自分」と激しく言い争ったりする演出が気に入った。人間の葛藤を表すのに、そうした書き方をする人はあまりお目にかか
読書感想-「罪と罰 上」ドストエフスキー
睡眠時間が削れても、本を読む手が止まらなくなることがある。すると翌朝、まさに今だけれど、寝ぼけたまま電車に乗るハメになる。そういう意味でも「罪」な小説である。
人間が多数出てきて、互いに呼び名が変わったりする。ロシアの姓名に馴染みのない僕らは、メモをとらないと読み進められない。初読の人は、おおむね、そこで挫折するのだと思う。
しかしハードルを一度超えると、そのぶん没入の度合いも甚だしくなる。た
読書感想-「独ソ戦」大木毅
今日も眠いので、これにて。
書き始めると、とまらなくなっちゃうので。
本当にここ1、2週間は仕事が手につかない。いまの時代に、普通に暮らしている人たちの生活が奪われ、武器や力によって圧倒されることがあるのかと。信じられない心地でいる。
片方の自分は、戦争について踏み込んだことを書くには「あまりに知らなすぎるから」と自重する。もう片方の自分は、「戦争について思ったことを書いてはいけない人間などいな
読書感想-「同志少女よ、敵を撃て」逢坂冬馬
主人公セラフィマは家族を奪われ、故郷を焼かれ、復讐を誓った。その彼女ですら、教官に「なぜ戦うのか」と問われ、懊悩する場面がある。
敵を撃っても、禍根を断つことはできない。もし死んだ母親や村の人たちをよみがえらせることができたなら、彼女は復讐ではなく、そちらを選んだだろう。
時間を巻き戻して、失ったものを取り戻す、あるいは起きた悲劇をなくし、やり直す。これしか人間を本当に救う道はない。そして、そ
読書感想-「完全なる証明」マーシャ・ガッセン
意図せず、またロシア(ソ連)が登場する本を読んだ。
完全なる証明、とタイトルにあるが、「完全なもの」は世の中とは相容れないことが多い。
ドストエフスキーの「白痴」は、まさにそんな話だった気がする。人間として完全でありすぎるがゆえに陥る不幸、みたいな。
しかしロシアという国は、人間の美も醜も、とことん煮詰めるようである。
不思議な国であり、外国人である僕たちが「理解できた」と勝手に思うのはきわ
読書感想-「ありえないことが現実になるとき」ジャン=ピエール・デュピュイ
今月1冊目。
インテリアと収納にハマり、ここ10年ではじめて、あまり本を読まない生活になっている。仕事が忙しかったこともあるけれど。
しかしゆっくり読むのもいい。これを機に、ほんとうに冊数を気にせずに読書を楽しめるようになればいいと思う。習慣になれば、気にしなくても、ずっと続くのだから。
読書感想-大本営発表(辻田真佐憲)
自分に不都合なことを報告するとき、つい言葉数が増えるのは世の常らしい。78ページに重い教訓がある。「焦る陸軍報道部は修飾語を乱用」
■「転進」「玉砕」――。けばけばしい発表文はやがて、撃墜や損失数のごまかし、捏造につながる。情緒が幅を利かせ、事実が軽んじられてゆく
■言葉で飾り立てて後に引けなくなり、日本は泥沼に足を突っ込んだ。報道に残された課題も大きい。今なら、止められるだろうか
■頼もし
読書感想-「タタール人の砂漠」
勤勉と無為は似ている。自分がする仕事の意義を誰かに任せて、ただ忠実に……
■舞台は、国境の砂漠地帯にある忘れられた砦。華のない職場で、誰もが千載一遇の機、すなわちタタール人が攻めてくる日を夢見ている。「無駄じゃなかった」と言えるその時を
■若い主人公が、環境に慣れていく様子がおそろしい。異動を望むのは、自らダメな奴だと認めることではないのか?――見栄を張るうちに数か月が数年になる。出世をし、居