読書感想-「完全なる証明」マーシャ・ガッセン

数学は、不完全な人間が完全を目指す営みだ。そのギャップが生んだドラマである。

■「ポアンカレ予想」を証明したにもかかわらず、賞金を辞退し隠遁したロシア人、ペレルマン。本人が取材を謝絶する中、周囲の証言からその生涯をたどる。

■かつてソ連の数学エリートだった筆者の述懐は説得力がある。同国の子どもにとって数学は、横並び主義や差別が横行する社会の枷から逃れるための切符でもあった。

■そこに数学への過度な期待と没頭の萌芽を感じる。天才は社会と折り合えなかった。もちろん、才能と狂気なくして、世紀の難問は解けなかっただろう。


意図せず、またロシア(ソ連)が登場する本を読んだ。

完全なる証明、とタイトルにあるが、「完全なもの」は世の中とは相容れないことが多い。

ドストエフスキーの「白痴」は、まさにそんな話だった気がする。人間として完全でありすぎるがゆえに陥る不幸、みたいな。

しかしロシアという国は、人間の美も醜も、とことん煮詰めるようである。
不思議な国であり、外国人である僕たちが「理解できた」と勝手に思うのはきわめて危険な国でもあるのだろう。

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