マガジンのカバー画像

老父と娘の"ちょっといい時間"

20
認知症の実父と娘の"ちょっといい時間"を綴ったエッセイ。介護の中には、幸せがいっぱいでした。
運営しているクリエイター

記事一覧

残念なカスタードクリームで"私"を大切にする

残念なカスタードクリームで"私"を大切にする

手作りのカスタードクリームを、パンにたっぷり塗って食べたいなぁ。

ふと、そう思った。

普段は、あまりお菓子作りはしないので、前回作ったのは3年以上前だった。

実は、前日の朝食時にもそう思ったのだが、今から作ったのでは朝食が遅くなるし、まあいいかと辞めにした。

ところが翌朝も、やっぱり食べたいと思った。

父のことに気を配る日常を過ごしていると、こうした

"ちょっとした私の気持ち"

をス

もっとみる
父と迎える7回目の節分

父と迎える7回目の節分

私「今日は節分だでね。歳の数だけお豆食べてね^ ^」

父「そんなの関係ねぇや」

テレビでは、各地の節分の様子が紹介されています。動物園で、恵方巻きや豆に見立てたエサが、動物たちにプレゼントされた様子を見て、父がククッと笑いました。

私「お父さんは何歳ですか?」

去年の投稿を見ると、最初は70歳から始まり、80歳→90歳と言い直したようです。

今年は、何て言うかな…?

少し考えると、私の

もっとみる
ぽんこつバトル

ぽんこつバトル

夕方はいつも、認知症の父とテレビを見ながら少し遅めのお茶にする。そして、お茶を飲んでいる間に風呂を沸かす。

前もって、父が服を脱ぐ寝室、その後移動して下着を脱ぐ脱衣所、そして浴室の3ヶ所を、やや温度高め設定の暖房で温める。

お茶を飲んで、父の身体が温まったところで、父を風呂へと促すのだ。冬はこのくらいまでしないと、高齢の父はすぐにヒートショックを起こしてしまう。

日ごろの父の入浴までの様子は

もっとみる
お風呂、それは長い長い修行のような道のり②

お風呂、それは長い長い修行のような道のり②

※これは、「お風呂、それは長い長い修行のような道のり①」のつづきです。まだの方は、こちらからどうぞ↓

こうしてやっと、父の入浴がスタート。

服を脱いで裸になると、父は体を流し、粉末の入浴剤を風呂に投入。そして、まずはゆっくりお風呂につかる。

この時、身体が温まっていないと、いつも以上に長~く風呂につかってしまうか、さらにはそれでも温かいと感じられなくて、風呂の温度設定を「ピッ!」とあげてしま

もっとみる
お風呂、それは長い長い修行のような道のり①

お風呂、それは長い長い修行のような道のり①

認知症になると、なかなかお風呂に入ってくれないという話をよく耳にするが、私の父は入浴好きで、妄想モードが激しい時以外は、基本的に、今も毎日入浴する。

けれど、昨年の夏あたりから、どうやら頻繁に、体の洗い方がわからなくなってきているらしいことに気がついた。

介護している友人の話を聞くと、認知症の進行がとても早い人も結構いるのだが、父の認知症の進行は比較的ゆっくりタイプ。

だから、それは突然そう

もっとみる
笑顔で始まり、笑顔で終わる

笑顔で始まり、笑顔で終わる

昨日は
最低気温−12℃
最高気温−2℃

朝、起きた時の気温は−10℃くらいだったので、いつもより厚めの5本指ソックスを父に渡す。

暫くして、もう履いたかな?と見てみると…

あれ?まだ全然履いてない。
なんで💧?

見ると、片方を履いて脱いだようだ。

ああ、左右を間違えたのか、と思って見ていたが、

ちょうどその時、父が
「なんだこりゃ?」
と呟いた。

ん?
…あぁっ‼︎

私がうっか

もっとみる
介護がくれた、豊かな時間

介護がくれた、豊かな時間

定年退職した、かつての職場の先輩が、今でも時々手紙をくれます。

中身は、いつもほんの数行で、繋がっているLINEで一言で送れるのに、年に1〜2回、ふと手紙をくれるのです。

退職後、彼女も自宅で親を介護しています。

退職したばかりの頃、彼女から届いた手紙に、こう書かれていました。

「わざわざ出汁をとって、味噌汁を作ってみたりしています」

一緒に働いていた頃、私も彼女も、連日、早くから遅くま

もっとみる
まさかの「フィギュア」の意味

まさかの「フィギュア」の意味

朝からずっとついたままのテレビから、オリンピック中継が続いている。

認知症の父は、日増しに、うとうとしながら過ごす時間が多くなってきている。毎日のように、新聞を読みながら寝てしまうし、朝食を食べている時も、一つ食べ終わると、そのまま、次には手をつけずに寝てしまうことも珍しくない。そんな時は、思わず、お腹の中で、クスッと笑ってしまう。

朝食を食べながら眠る姿は赤ん坊のようだが、一日中、うとうとし

もっとみる
お父さん、何歳?

お父さん、何歳?

以前、住んでいた実家は、終戦の翌年に建てられた超ボロい借家だった。

おかげで、ネズミとは年中仲良しで、その辺に食べ物を出したまま寝てしまおうものなら、必ず、翌日にはかじられてしまっていたし、本棚の裏側には、いつでも、ネズミのフンが落ちていた。

節分の日には、母に「家で豆をまくとネズミが出るから、豆は外でまきなさい」と言われ、子ども心に、どことなく「鬼は外、福は内」の言葉に矛盾してないか?と感じ

もっとみる
あの世からとどいた短冊

あの世からとどいた短冊

 父がデイサービスから短冊を持ち帰ったのは、8月に入ってすぐのことだった。

 松本市には、子どもの成長を願って七夕人形を飾り、「ほうとう」という名前の郷土食を食べる慣わしがある。「ほうとう」といえば、野菜たっぷりの鍋に平打ち麺を入れて味噌で煮込んだ山梨の郷土料理が有名だが、松本市のそれは、冷たい極太麺に、あんこ・きなこ・ごまをまぶした、いわば”うどんでつくったおはぎ”のことで、七夕の日にしか食べ

もっとみる
明日死ぬなら刺身定食②

明日死ぬなら刺身定食②

この文章は、下記の「明日死ぬなら刺身定食①」の続きです。まだの方は、こちらからどうぞ↓

ところが、その夜のこと。父がお風呂に入っていた時のことだ。

と、その前に、まずは、父のお風呂に入る時のルーティーンを書いておこうと思う。

いつも、夕方のだいたい決まった時間に、父は入浴する。元々、大の酒好きで、毎晩、風呂を先に済ませてから、パジャマ姿でゆっくりと晩酌を楽しんできた。だから、初めて脳梗塞にな

もっとみる
明日死ぬなら刺身定食①

明日死ぬなら刺身定食①

今日は、父を連れて総合病院へ。

先月、4度目の脳梗塞を患ったばかりだというのに、退院して間もなく、今度は、ふと、風呂上がりの父の後ろ姿におかしな膨らみをみつけた。

スーパーでよく見かける、桃やみかんが入ったドーム型のゼリーみたいな形で、直径5cm、厚さ1cmほどの膨らみなのだが、かかりつけ医に暫く様子を見るように言われたのち、結局、総合病院へとなった。

診察は、柔らかく痛みもないことから問題

もっとみる
父を抱きしめる

父を抱きしめる

コロナの到来により、ハグの文化は、世界中で当面の間お預けだが、近頃は日本でも、再会や別れなど様々な場で、友人とハグすることは珍しくない。

8年程前、私はふと

「両親とハグできるだろうか」

と、思った。

当時両親は、あちこちが歳相応に錆びついてはいるものの、おかげ様で、まぁなんとか普通に元気に暮らしています、という状態だった。それでも、70代後半という年齢を思えば、そう遠くはない未来に必ず別

もっとみる
なくなったデジカメ

なくなったデジカメ

去年は、6月に父を連れて旅行にでかけた。そうか、あの“事件”から、もう1年もたつのか。

「お父さん、写真現像してくるからデジカメちょうだい」
父のデジカメが、見当たらない。

先日出かけた時の画像がそのままになっているので、写真にして、データを削除しようと思ったのだが見つからない。一昨日の父の日記に、写真を現像しなければと思っていると記されていたから、その時にはあったのだろう。

明後日から一緒

もっとみる