お風呂、それは長い長い修行のような道のり①
認知症になると、なかなかお風呂に入ってくれないという話をよく耳にするが、私の父は入浴好きで、妄想モードが激しい時以外は、基本的に、今も毎日入浴する。
けれど、昨年の夏あたりから、どうやら頻繁に、体の洗い方がわからなくなってきているらしいことに気がついた。
介護している友人の話を聞くと、認知症の進行がとても早い人も結構いるのだが、父の認知症の進行は比較的ゆっくりタイプ。
だから、それは突然そうなったわけではなく、何年も何年も時間をかけて、
「たま〜〜〜〜にそんな時があって、家族がはぁ??ってなる」
↓
「たまにそんな時が…」
↓
「時々そんな時が…」
↓
「ちょいちょいそんな時が…」
↓
「ちゃんとやれない時の方が多く…」
というように変化してきた。
「私がして欲しいこと」の指示は、ジャストタイミングである"直前"でないと、今の父には入らない。そう、犬のしつけと同じである。いや、考えようによっては、犬のしつけの方が楽かもしれない。
まず、お風呂が沸くと、リビングでテレビを見ている父に
「お父さん、お風呂沸きましたよ」
と声をかける。
今日は遅くなっちゃったから、すぐ入って欲しい!という気持ちの時もあるが、そうは問屋が卸さない。
父は、本人が、さて風呂に入ろうかなという気持ちになって初めて重めの腰をあげる。そこには、私の感覚よりも相当なタイムラグがある。
かと思えば、私がスーパーへ買い物に行っている隙に、いつもよりも1時間以上も早く、勝手にお風呂を沸かして入ってしまうこともあったりする。けれど、その場合は、バスタブを洗わずにお湯を入れていたり、バスタブを洗ってくれたのはいいが、なぜか体を洗うナイロンタオルに粉末の入浴剤をつけてガシガシと風呂をこすっていたり、さらには、これらの一連の行動は、室内用のスリッパを履いたまま行われるため、そのあと廊下を、水で濡れたスリッパでペタペタ歩いてくれるおまけつき。
入浴時間にはまだ早いから大丈夫だろうと帰宅した私の、しまった!というがっかり感やら、や~め~てぇ~(- -;;というイライラ感を、これまで何度体験したことだろう。
でもまあそれより何より、今はヒートショックの心配が最も大きく、一人で入浴させるのには大きく不安があるため、極力そうならないように気を付けている。
さて、お風呂が沸いたことを伝えてから腰をあげてくれるまでは、様子を見て、根気よく、繰り返し、繰り返し声をかける。スムーズにすっと立ち上がってくれる時もあるが、10分、15分、30分、45分…と、なっかなか入ってくれない時も少なくない。
この時の声かけのポイントは、
"私がイライラしないこと"
私がイライラし始めると父もイライラし始め、その後は、私の言うことをますます聞いてくれない。
こういう時の心理は、認知症でも、そうでなくてもあまり変わらないのだ。
ほら、宿題をやろうとしていた矢先に母親に早くやりなさいなどと言われ、そのとたんにやる気がなくなる、あれである。
だから、私の内心のイライラは極限まで浄化して成仏させ、「さぁさぁ、お客様、入ってくっださっいよ〜😊♪」と、ご機嫌な宿の女将くらいの軽さをもって、それでも最大の「はよ、入らんかーい!」の微妙なニュアンスを込めて
「お父さん。おーふーろ😅」
と、間合いだけでそれを表現している。
妄想状態が酷い時は、これだけで1時間30分ほども要してしまう時もある。
入浴の際は、ヒートショックをおこさないよう、前もって、リビングのコタツとストーブの温度設定を通常よりも若干熱めにして父の体温を温めておき、浴室や脱衣所など、あちこちの部屋を暖めている。
1時間30分も入ってくれなければ、高騰した光熱費のことが気になりだしたり、そのあとの段取りに気持ちが向かい、だんだんと腹がたってくるのだ。
でも、今はもう、こうしたことぜ~んぶを諦めることにした。
叱ってやれるようになるならそうすればいいが、叱ってみたところで、やれるようにはならないのだ。
やっとコタツから立ち上がった次は、トイレへの誘導。
これも、ジャストタイミングでないと「大丈夫」と言ってスルーされてしまう。
トイレなんて、別に行かなくても大したことないと思うかもしれないが、入浴前にトイレに行っておかないと、脱衣所で裸になった時に、自然と床に"水溜り"を作ってしまうことが何回かあった。無自覚にそうなってしまうらしい。
もしくは、浴室で体を流しながら一緒についでに…ということになってしまうことが多い。まあ父にすれば、バスタブの中でするわけではないのだし、風呂場で用を足したところで、流れてしまうのだから何一つ問題はないと思っているに違いないが、できれば私は勘弁していただきたい(-_-;)
だから、リビングで立ち上がってスリッパを履いたら、まさにその直後に
「お父さん、オシッコも行ってね^ ^」
と声をかける。
この時も「ちゃんとトイレにも行ってよ💢‼」などと言うと、かえってしてくれなくなるので、できるだけ穏やかに声をかける。
すると、ふわ〜っとすんなり行動してくれる。
最初の声掛けでトイレをスルーされたら、浴室の向かい側にある寝室で服を脱いだところでもう一回。
それでもトイレに行ってくれなければ、下着姿で、寝室から洗面所へ向かったところでもう一回トイレを促す。
これで9割くらいは成功するが、それでも行ってくれなかった時は、脱衣所の床に"水溜まり"ができる確率が高いことを覚悟する。
それも、私がいち早く”水たまり”に気づけないと、本人が勝手に、洗面所の手拭き用タオルなどで"水たまり"を拭いてしまったりするのだ(T_T)さすがにこれは、ギャー!ってなるw そこで、父が裸になったであろう瞬間に、”水たまり”が創られなかったかどうか、すぐに脱衣所のドアをあけて、裸の父の足元をチェックするのだ。
その時そこに、”水たまり”がなかった場合は、浴室で体を流しながらしてしまっているかもしれないが、脱衣所でされるよりはマシである。
ふぅ〜。
長い道のりに、お付き合いいただき誠にありがとうございましたw。
さて、こうしてやっと父の入浴がスタートするのですが…
「お風呂、それは長い長い修行のような道のり②」へ続く…
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