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#022.呼吸5(呼気実践編その2)

トランペットの荻原明(おぎわらあきら)です。

ただいま呼吸について解説しています。これまでに、解説した記事をご覧になっていない方は、ぜひ以下のリンクからご覧ください。

それでは、今回も実際にトランペットを演奏する際の呼気について解説します。


なぜプロ奏者は見ただけで上手そうに感じるのか

たとえ知らない奏者であっても写真だけで「あ、この人プロだろうな」とか「上手そう」とか思うこと、ありますよね。

なぜそう感じるのか。答えは「姿勢」にあります。

しかしモデルさんのようにシャキっと背筋を伸ばしているというのでもなく、なんとも言えない独特な安定感のある「良い姿勢」です。
これは、呼気時に用いている筋肉が収縮(筋肉が働いていること)をしているからで、前回お話しした腹筋のひとつ、腹横筋や、骨盤底筋群が収縮することによるものです。

出典:http://www.bodybook.jp/dictionary/201412/post-123.html

腹圧とは

このように腹横筋というとても大きなインナーマッスルが側面から前へ向かって、骨盤底筋が上に向かって働くことで効率よく腹腔(お腹の内臓が入っている大きな袋)の中に圧力がかかるわけです。
この腹腔内に圧力がかかることを「腹圧」と呼び、腹圧によって横隔膜が下から押し上げられ、肺から口の奥までの空気の圧力をコントロールしているわけです。
ですから、トランペット奏者の音を出す前後の体の動きを見ていれば、その人が体をどのように使って音を出しているのかすぐにわかります。

腹筋トレーニングの腹圧とトランペットの腹圧の違い

同じ腹圧であっても目的意識によってはトランペットの演奏に不向きなものがあるのです。それが腹筋トレーニングです。

腹筋トレーニングは腹圧を利用します。ビーチボールを外側から押し潰そうと力を入れて筋力を鍛えると考えるとわかりやすいかもしれません。以下のイラストのボールが腹腔だと思ってください。


出典:http://takutore.com/ball/ball24.html

筋肉に負荷をかけるためには、ボールがしぼまないないことが必要です。このボールを腹腔に置き換えて考ると、トレーニング中は腹腔がパンパンに張り続けている、要するに『体内の空気が抜けにくい」状態を作る必要があります。

腹筋トレーニングをするとき、呼吸を止めますよね。

その呼吸、どこでせき止めているのでしょうか。

腹筋トレーニングは辛いので歯を食いしばる人が多いと思いますが、多くの場合「喉」、正確には喉頭こうとうと呼ばれる器官がそれを行なっています。

出典:https://ganjoho.jp/public/cancer/larynx/index.html

喉頭は声帯などがある部分です。まずこれを覚えておいてください。

喉は開きません

よく演奏指導者は「喉をあけて」と言いますが、喉(気管)は軟骨でできているため、通常より大きくすることは不可能で、逆に首を絞めたりしなければ潰れることもありません(ぜんそくなどのアレルギー症状は今は考慮していません)。では「喉を開ける」とは何を指しているのかと言えば「声帯を閉めて空気の流れを遮断しない」ことであると考えます。

以前の呼吸記事で「あくびの吸気」という話をしましたが、人間は誰でもあくびにはじまる吸気時には声帯などは緩まり、空気が通過しやすくなります。肺からアパチュアまでを遮ることなく空気で満たして空気圧をコントロールするトランペットの演奏では、喉頭で空気をせき止めてしまってはなりません。

舌の奥と上顎で空気量を調節する

体内の空気圧は喉頭ではなく舌の奥が上顎と接近することによって空気の流れが悪くなり高まります。これによってアパチュアに大量の空気が到達するのを防ぐことができ、効率よく響きを発生させられるわけです。

吹奏楽部では未だに腹筋トレーニングを採用しているところがありますが、これを迂闊に実行することで、あたかも「トランペットの演奏には腹筋トレーニングと同じ体の使い方をするのだ」と勘違いさせてしまいかねません。みんな腹直筋を強く使ってふんばり、喉を締めて空気を遮断した状態で音がなかなか出ず、ゼーハー言いながら「トランペットって苦しいですね」とか言うの、全部指導する人が問題です。

腹筋トレーニング自体が体に悪いわけではありませんが、これを管楽器の演奏と結びつけるのは大変危険です。ぜひ部活ではないスポーツの時間にでも行ってください。

ということで、今回はここまでです。

荻原明(おぎわらあきら)

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