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学生時代をスポーツに捧げるリスクは無視できないという話

一部のコアなファンの方がご存知かもしれませんが、私は体が大きいです。
小学生の頃から皆より頭一つ大きく、6年生になる頃には170cmを超えていました。
中学ではすぐに180cmに達して、今は187cmくらいあります。

スポーツもかなり得意だったので、ある程度見ればできるタイプでした。
腕力もゴリラだったので、格闘技にも適していたようで、ろくにルールも覚えてない状態で、1週間ほど練習して個人戦で優勝したりもしました。
県内の地区で開催された相撲大会なんて3連覇しています。

そのおかげもあって、相撲部屋を始めとして、小学生の頃は様々なスポーツのお誘いや推薦を受けましたし、球技のクラブチームのようなところからも何度かお誘いをいただきました。
格闘技の大会で優勝した後なんて、家に自衛隊の服装をしたムキムキのおっさんたちが来て、高校卒業後は自衛官にならないかとめちゃくちゃ怖い顔で誘われたりもしました。

その他のスポーツでも、家に顧問の先生やクラブチームの監督みたいな人が来て何度か誘われました。

しかし、そのすべてのお誘いをうちの親が断ってくれました。

私の家はとても貧乏で、かつ、子どものクラブ活動などに一切協力しない、お金も一切出さないという強い信念を持っている親だったので、即答でお断りしていました。
それに、そもそも私の性格がウンコ野郎で、誰とも仲良くできず内向的でしたし、小児ぜんそくを患っていたので長時間の運動もできませんでした。
結果、中学の途中からずっと帰宅部です。

実はこう見えても中学生になったばかりの頃に、真剣にスポーツの世界で生きていく道を模索したことがあります。
家が貧乏でどうしようもないということは子どもながらにわかっていたので、早く独り立ちして稼ぐためには、人一倍大きな体を駆使した方が良いのではないかと思ったからです。
周りの大人達も熱心に誘ってくれているし、やってみても良いのではないかと。

ただ、そう考え始めた時期に、私の視力が10分の1になるという異常事態が発生しました。
今まで見えていたものがほとんど見えなくなり、球技のほとんどをまともに行えなくなりました。

貧乏だったがゆえにコンタクトも買ってもらえず、メガネですら買ってもらえるまでに1年以上かかりました。

さらに不運なことに、私の中学は当時、設立以来稀に見る劣悪な状態だったので、どこの部活の部室も不良たちがタバコやシンナーを吸う場所になっていて、まともに機能している部活がほとんどなく、かつ、田舎ゆえにクラブチームのある地区まで行くのも遠すぎるという理由もあって、スポーツで頑張るという発想が出づらい環境にありました。

そういう諸々の理由が重なって、私はスポーツの世界に進むことはありませんでした。

そして大人になった今、あのときスポーツの世界に進まなくて良かったのかもしれないと思うに至っています。

今回はそういう話をしたいと思います。


かつてヒーローだった人たち

私の同級生に、一人プロ野球選手の一歩手前まで行った人がいます。
彼は子供の頃から特別な存在で、抜群の運動神経と足の速さを持っており、3歳から野球の英才教育を受けて育った子です。
親が熱心な野球教育家で、リトルリーグのチームにしっかりと入れて、徹底して野球の教育を施していました。

その結果、高校も当然に特待生で名門校に入り、甲子園に出場しました。

しかし、体格には恵まれずにプロ入りはできませんでした。

自分の周りでスポーツで成功しかけた人は彼だけだったのですが、社会人になって多くの人と出会ったことで、各スポーツのヒーローだった人たちにも多く出会うことができました。

一部の例ですが、以下のような人たちです。

  • 元甲子園出場のエース級選手(何人もいる)

  • 元Jリーグのユースメンバー(何人もいる)

  • 元Jリーグの選手

  • 全国制覇を成し遂げた元バスケ部のエース(超有名高校)

  • その他バスケの全国大会出場経験者たち

  • 高校時代に水泳の全国トップ争い常連だった元選手

  • 中高大と連続で柔道の全国トップランカーだった元選手たち

  • 剣道の全国トップランカーだった元選手たち

  • バレーの全国大会に出場した元選手たち

  • その他様々なスポーツで全国大会出場まで行った元エースたち

思い出せる範囲でも数十人います。

彼らの話はとても興味深く、面白いです。
高校生時代にどれだけモテたのか、どれほどファンがいたのかなどを聞くと、ジャニーズレベルで凄い話がポンポン出てきます。

特にバスケとサッカーは凄まじくモテたみたいです。
男子バレーも凄いですね。
漫画の主人公のような話を聞けるのでとても面白いです。

しかし一方で、社会人としての実績はどうかと言われると、ほとんどの人が何の実績も出しておらず、平社員のままで、かなり安い報酬で働き続けています。

最も多く稼いでいるのは、元柔道の選手だった人です。
彼は有名な警備会社に就職が決まったので、今では年収700万円ほど稼いでいます。
それ以外の人たちの平均値を取ると400万円くらいになります。

格闘技経験を活かして警察官になっている人も何人かいるので、彼らは今後20~30年間勤続することで、ある程度はもらえるようになると思います。
ただ、今の時点ではかなり安い報酬です。
ちなみに、すでに3名ほど警察官を辞めてしまっています。

このように、一部の例外を除いて、全国的にもある程度名が通っていた素晴らしい選手たちが、今では見る影もない状態です。


なぜ報酬が安いのか

彼らの報酬が安い主な原因は、その学力の低さにあります。

多くの人が小中高大の大部分をスポーツに捧げてきたアスリートなので、勉強をほとんどしていない人が多いのです。
それもあって、実質的な学力は小学生~中学生レベルという人も多いです。

そうなってくるとビジネスにおける高度な会話が成立しませんから、就ける職業も限られてきます。
現に彼らのほとんどは専門的な知識を必要とする専門職には就けておらず、一般的に報酬が安い職種または体力勝負の営業職にしか採用されていません。

中には営業職として才能を開花させて、ある程度稼いでいる人もいますが、営業職はメンタルがやられやすいので、長期的に稼ぎ続けられている人は少数派です。

出会った人たちの一部は、スポーツを引退したあとに厳しい就職事情を体験したことで勉強の重要性に気づいて私のところに来た人たちもいます。
しかし、皆さん勉強という苦行に耐えられず、1年も保たずに挫折していきました。
あれだけ苦しく辛い練習に耐えられる人たちでも、勉強は続けられないようです。

また、ある程度勉強の才能を有する人であっても、スポーツ選手だった頃のプライドが捨てられず、周りと軋轢を生んで成功できずに終わる人も何人もいました。
一度膨れ上がった自尊心を完全にへし折れる人はかなり少ないようで、どうしても無駄なプライドが残ってしまうことで周りの反感を買ってしまい、誰も重要な情報を教えてくれないという状況に陥りやすいです。

結果として、スポーツに学生時代のほとんどを捧げてきた元アスリートたちは、社会人になったあとで成功し辛い状況が続いています。

例外ももちろんいますが、私の見てきた限りでは成功できていない人が大多数です。


学生時代をスポーツに捧げるリスク

この年齢になって改めて思うのは、学生時代をスポーツに捧げてしまうリスクの大きさが尋常ではないということです。

中学・高校という、勉強にとって極めて重要な時期をスポーツに全集中してしまうと、それだけで一生縮められないほどの学力差が生まれます。
そのため、もし全国トップクラスの進学校または大学を目指すなら、スポーツは一旦置いておいて、勉強に集中すべきです。

しかし一方で、スポーツで全国制覇を目指そうと思ったら、勉強を犠牲にしてでも練習しないといけません。

よほどの天才でもない限り両方で結果を出すというのは至難の業です。

そのため、学生の多く(文化部を除く)は、主に以下の5択の中から自分の進むべき道を選ばないといけません。

  1. 勉強を死ぬほど頑張る

  2. スポーツを死ぬほど頑張る

  3. 勉強とスポーツを両方限界まで頑張る(大抵4になる)

  4. 勉強とスポーツを両方中途半端にやる

  5. 勉強もスポーツも頑張らない

多くの学生は4か5です。
3は一部の天才が成し遂げられることで、大抵の場合は4に落ち着きます。

1は進学校や有名大学の学生に多く、2はスポーツ選手に多いです。

しかし、2を選んでしまったがゆえに、社会人になってすごく苦労している人が多くいます。

このリスクを正確に理解している学生がどの程度いるでしょうか。
少なくとも私は、学生時代にこのリスクを教えられたことがありません。


子どもに正しい情報を与える教育

かなり難しい話ではあるのですが、子どもにリスクをきちんと教えないといけないなと思っています。
残念ながら、社会の実態をよく理解している教員や親は少ないので、リスクを教えられる大人自体が極めて少ないのですが、それでも教える努力はするべきだと思います。

少なくとも私は子供の頃に将来のリスクを教えられたことがないので、今思えばちゃんと教えてほしかったなと思っています。
メリット・デメリットを両方よく理解した上で人生を選択しないと、取り返しのつかない大失敗をしてしまうからです。

大人になってその失敗を挽回するのはかなり難しいです。
日本は一度レールから外れた人間にかなり厳しいですから、ストレートに王道を進むのが最も効率的で、効果的です。

子どもにリスクの説明をしてきちんと理解してもらえるかはわかりませんが、知りたいと思っている賢い子たちが、情報を集められるようにはしておくべきだと思います。

ちなみに本記事も、先々賢い子たちが検索して辿り着いたときに役に立てば良いなと思って書いています。


私の過去の教え子の中に、元アスリートが結構いまして、大学まですべて特待生で進んだというメンバーが複数人いました。
過去形なのは、皆勉強を辞めてしまったからです。

私が彼らに対して最初に教えることは、彼らが選んだ過去の選択のリスクの大きさです。
スポーツ自体は素晴らしいものではあるのですが、それに集中し過ぎると、いざスポーツができなくなった瞬間に、すべての負債がのしかかってきます。

まさに今その負債がのしかかってきている彼らにこの話をすると、皆「もっと早く知りたかった」と言います。
中学生の頃に知っていれば、絶対に特待生で進学したりしなかったと。

彼らも皆、多かれ少なけれ、進学時に悩んではいるのです。
このまま特待生になって、スポーツ一色の高校生活・大学生活を送って良いのかなと。

でも、今まで勉強をしてこなかったし、する時間もほとんどなかったから、特待生を受けるしか選択肢が無いのです。
結果として、大学までずっとスポーツ一色の学生生活です。

それで一流のプロになれるなら問題なかったのでしょうが、残念ながら一流のプロとして飯を食えるのはほんの一握りしかいません。
ほとんどの選手は実業団の選手にもなれずに、いきなり社会に放り出されます。

ある日突然、スポーツをしなくてもいいけど働かないと食っていけない世界に放り出されるのです。
そして、高い報酬を得るためには、一般的に相当な学力が必要になると思い知らされます。

その時点で、真面目に勉強をしてきた人間との間には、約10年分の学習時間の差が生まれています。
トップクラスの子たちと比べると、10,000時間以上の差になります。
絶望的ともいえるこの学習量の差を、社会に出て初めて実感するのです。

もちろんスポーツに専念しなかった人たちが皆成功者になるわけではないですが、少なくとも勉強に専念した子たちの多くは、普通にやっていればそこそこ良い会社に入れます。
その小さな選択の差が、10年、20年と時間を重ねるごとにジワジワと効いてくるのです。

そういうリスクを教えないことが本当に正しい教育なのか。
私にはかなり疑問です。

スポーツを選んだ子たちが、勉強をしないリスクをきちんと理解した上で選択したのであれば問題ないですが、何もわからずに流されるまま選んでしまったのなら、教育の失敗だと思っています。
人生は一度きりですから、冷静な判断をさせてあげるべきです。

そもそも、スポーツで長く実績を出せている子なのですから、類まれな才能を持っていることは間違いないです。
少なくとも、目標のために一生懸命努力できる才能を持っています。

その才能をスポーツ以外に使った方が、実は大きな利益を得られる可能性が高いことを子どもに教えてあげるべきだと思っています。

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