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『生きててよかった』雑記

新宿武蔵野館で鈴木太一監督・脚本作品『生きててよかった』を見てきました。

設定的な疑問が残る部分がありながら、無骨で「生きる」「生き様」「性」「生き甲斐」「友達」「大人たち/男たちの夢」を描く不器用な男女によるアンサンブルだった。


医師からのドクターストップでボクサーとして引退をした主人公・楠木創太。幼馴染みの幸子と結婚し、一般人として第二の人生を模索するも、ボクシング以外やったことがない創太は悪戦苦闘。そんな折、創太の元に新堂勇が現れ、後先考えない創太のファイトスタイルを買い、創太を地下格闘技の世界に誘(いざな)う。


この映画には創太の幼馴染みの売れない役者の松岡健児が絶えず傍らにいる。二人は子供の頃に『ロッキー』を見て、創太はボクサー、健児は俳優に憧れそれぞれ目指すが、それぞれボクサー/俳優にはなれているが一流にはなれなく、中途半端。

ボクシング以外の仕事が出来ない創太や妻となる幸子の存在、健児との友情、再起など確かに『ロッキー』シリーズを彷彿させるものもありながら全部が全部そうではない。創太、幸子、健児の微妙な関係に幸子の隠し事、創太の幸子への接し方など、どこか一言では表しきれない面倒さ、不器用、無骨さ、自分勝手さ、もどかしさがある。

そして後半は地下格闘技というダークな世界を描き、創太はこれに生き甲斐を求めてのめり込む。武器以外は何でもありの闇の世界のヤバい雰囲気も十分だし、これに誘ってきた新堂勇のいかにも闇の世界の住人の感じもよく出ている。

ボクサーの引退後や地下格闘技の闇の世界、幼馴染みの微妙な人間関係と性に不器用な夫婦など見所満載でよく出来てはいる。

が、そもそもドクターストップになったボクサーが一般生活に全く支障がなかったり、地下格闘技でバリバリ現役で闘えるものなのだろうか?

その医師の診断の部分も出来ればいれて欲しかったし、それでパンチドランカー的な頭部へのダメージの蓄積から来るものなのか、眼の網膜剥離等に近いものなのか? そこを見るものに委ねるのはありだけど、その後のシーンから推測すると、一般生活には支障がなく、実はまだまだボクシング・格闘技が出来るけど、戦績が芳しくないから多少の以上で引退だったのだろうか?

そこが今ひとつしっくり来なかったが、

「まだまだ戦える」と燻っている感じはある。


それと幸子の隠し事というか明らかにヤバい行動をしている部分もどうよとは思う。

そこには寂しさ、衝動の抑えきれなさ、さらにはある種の生活費の足しもあったのであろう。このシーンはスティーヴ・マックイーン監督の『SHAME -シェイム-』に通じるものがあるが、やや理解不能。

だったら、松本零士原作の「元祖大四畳半大物語」に出てくるヤクザのカップルみたいに「生活のため」と割り切るやり方もあったはず。


それと、創太・幸子にしても松岡夫妻にしても旦那がダメダメでどうやって食べていってるのか不思議。特に松岡夫妻には幼い息子もいるのに、奥さんに比重がかかる様子。わりと綺麗だから夜のお仕事でもして稼ぎがいいのか? これに対して幸子は弁当屋のアルバイト。明らかにバイトの稼ぎでは食べていけなそうだけど、裏で親からの支援でもあったのか?


とまあ、色々と燻りはあるが、

創太か戦うシーンはまるでセックスをしているかのような恍惚感があるので、「生きる/セックス」はあながち間違ってないと思える。

あと、火野正平が演じる老トレーナーの蕎麦屋での「生きる」論はズシリと来る。ベテランならではの強烈な一撃である。


無骨、不器用、燻りを絶えず感じはするが、それらをひっくるめて「生きる」である。 生き様も存分に味わえる粗削りの美味しさがある愛おしい映画である。

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