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シン・映画日記『ノースマン 導かれし復讐者』

TOHOシネマズ新宿にてロバート・エガース監督最新作『ノースマン 導かれし復讐者』を見てきた。

主演で主人公アムレート役にアレクサンダー・スカルスガルド、主人公の母親・グートルン王妃役にニコール・キッドマン、父親でホーヴェンディル王役にイーサン・ホークなど豪華なキャストでおくる10世紀のアイスランドを舞台にしたスペクタクルロマン&アクション&復讐劇!

シェイクスピアの悲劇「ハムレット」のベースになったスカンディナヴィアの伝説の人物アムレートの話にギリシャ神話の「王女メディア」のエッセンスをふりかけたり、北欧神話の狂戦士ベルセルクの要素を取り入れたり、ヴァルハラ、オーディン、ヴァルキリーなどを称えるセリフが多かったり、
ヨーロッパの神話や古典を全部盛りな趣。

ストーリーはアムレートが少年時代に父ホーヴェンディル王を叔父でホーヴェンディル王の弟のフィヨルニルに殺害され、
自分も殺されそうになる所を命からがら逃げ延び、
逃げ延びた先で狂戦士軍団の元で狂戦士になりつつ、ノルウェー王からかつての地を追われてアイスランドで羊飼いの首長をしているフィヨルニルの元に奴隷として忍込み復讐の機会をを伺う、という流れ。

要するに復讐劇なんだけど、
まずは全編、中世前期の北ヨーロッパの世界観を存分に味わえる。
冒頭に895年(それか896年)と出てくるが、
882年に今のベラルーシ、ロシア、ウクライナ辺りの土地の国家キエフ大公国が建国され、
その10年後ぐらいの世界で、
この時主人公アムレートが少年期で、後に青年期があるからこちらは911年にノルマンディー公国が出来るからその辺りかな、と。
と言われてもビンと来ない方は、
『キング・アーサー』より400年ぐらい後(6世紀)、
リドリー・スコット監督の『キングダム・オブ・ヘブン』の350〜400年前(十字軍遠征から100年後)とざっくり考えればいいかな。
だから戦闘シーンでは剣や斧、弓矢はしっかりしていても防具は兜とほぼ木製の盾といった感じで、
中世ヨーロッパの甲冑フル装備の騎士団よりもさらに前時代の戦士たちの戦い、世界である。

さらに、アムレートの父親が殺されステップ1として出てくる狂戦士の描写が凄まじい。
「ファイナル・ファンタジー」シリーズをやったことがある方なら分かるかもしれないが、ズバリ、バーサーカーであり、北欧神話で言う所のベルセルクである。
いや、完全に狼とか獣崇拝や狼の鳴き真似をしたりしているから、どちらかというと「北斗の拳」の牙一族が一番近いかも。
そんな牙一族になりつつも、真正面からかちこみをせずに、ステップ2としてわざわざ奴隷船に乗って、奴隷としてフィヨルニルのコミュニティに潜り込んだのが興味深い。
しかも、このフィヨルニルも元々いた国やどこかの国の王とかじゃなくて、
牧畜を生業とする農夫のコミュニティのリーダーみたいなのになっていた(零落れ?)というのがまた王道の史劇よりもリアリズムがあり、感嘆する。
その上、ニコール・キッドマンが演じるグートルンも囚われた元王妃とは違って後半のストーリーにがっつり絡んでくる。
この部分は「王妃メディア」とはかなり違うが、ギリシャ神話的なエッセンスがあり、やや単調だったストーリーに捻りを加えている。

あと、狂戦士軍団とはまた違ったシャーマニズムを随所に散りばめ、ここでワンポイントでビョークが使われていて、よりファンタジーさとミステリアスさが加わり楽しめる。ロバート・エガース監督的には『ライトハウス』でもちょっとファンタジー要素があったりしたから、監督の特色かも。

監督の特色といえば、
時代に合わせた落ち着いた色使いにしつつ、
随所でモノクロの演出もいれていて、
この辺も『ライトハウス』の監督らしさが伺える演出と言えよう。

中盤に若干間延びした感覚もあったりはしたが、
勢い任せではなく、
章立てにして、順序立て、
ストーリーの捻りとファンタジー要素もあり、
若干の前知識のみで臨んだが、
『最後の決闘裁判』ほどはいかなくとも
『キング・アーサー』や『キングダム・オブ・ヘブン』よりかは遥かに楽しめたヨーロッパ史劇アクション映画である!


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