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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2021年10月の記事一覧

『ユダよ、帰れ』(奥田知志・新教出版社)

『ユダよ、帰れ』(奥田知志・新教出版社)

一読して、主題説教だと分かる。それは著者本人もあとがきのようなところで述べている。キリスト教の礼拝における説教、あるいはメッセージと呼ばれる聖書のお話においては、大きく主題説教と講解説教に分類できると見られている。後者は聖書に書いてあることを説明することを中心とし、前者はあるテーマに沿って聖書を引用しながら話すものである。どちらがよいとも言えないし、私は個人的に、これらの分類も便宜上のものだと思っ

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『こどもサピエンス史』

『こどもサピエンス史』

(ベングト=エリック・エングホルム著・ヨンナ・ビョルンシェーナ絵・久山葉子訳・NHK出版・2021年7月発行)
 
痛い本である。実に厳しい。だがこどもたちへの呼びかけは力強く、希望に溢れている。希望は、やたら明るいだけの希望ではない。弱さや悪いところを十分自覚しているからこそ、希望を抱くのである。
 
サブタイトルは「生命の始まりからAIまで」ときて、まことに最新の情報が組み込まれている。ユヴァ

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本は友だち

本は友だち

夜中だろうが、隙間時間であろうが、いつでも付き合ってくれ、嫌な顔一つせず、すべてをさらけ出してくれる。寡黙な奴で、問いかけてもにやにやしながらこちらを見ているだけ。心の中を当ててごらん、とでも言うように、どっしりと構えてくれる。少々乱暴に扱っても許してくれる。本はいい奴だ。
 
ふと、昔の風景が目に浮かんできた。
 
「ジャポニカ大日本百科事典」。たぶんこういう名前だったと思う。家にあった。20巻

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『読まずにわかる こあら式 英語のニュアンス図鑑』

『読まずにわかる こあら式 英語のニュアンス図鑑』

(こあらの学校/KADOKAWA)
 
ネットで見かけてフォローしていた。可愛いコアラのキャラクターにより、英語の言葉の微妙なニュアンスを楽しく紹介していた。あるいは、私たちが誤解していそうなことを、一目で分かるように表していた。実に効果的だと思っていたら、間もなく本になった。そして、たちまち大反響で売れに売れている。
 
小さな文字で説明が少し、あるにはある。だが、それを読まなくても、要点は得ら

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『ポストコロナの生命哲学』(福岡伸一・伊藤亜紗・藤原辰史)

『ポストコロナの生命哲学』(福岡伸一・伊藤亜紗・藤原辰史)

2021年9月発行の集英社新書。ポストコロナを冠する類書はたくさんあるが、これはたぶん抜群のものであると思う。尤も、経済の動向にしか関心がない方にとっては落胆するだろう。人類文明の行く先を、冷静な眼差しで見つめる、現代的な哲学の観点から学びたい人にとって、抜群だということだ。
 
かつて『生物と無生物のあいだ』が広く読まれた福岡伸一氏。そこで直接扱う暇はなかったが、扱うことも可能であったと思われる

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