田家 康

古気候と歴史についての書籍を出しています。気象予報士、農中総合研究所客員研究員 No…

田家 康

古気候と歴史についての書籍を出しています。気象予報士、農中総合研究所客員研究員 Noteでは、FacebookやTwitterにアップした書評を中心に掲載します。

記事一覧

本年読んだ本ベスト3作(4作)

今年は126冊ほど読みましたが、良かった本3冊(4冊)をアップします。英語書や出版年が古いものは避け、分野を違えていますので、順不同です。 『人類の起源』篠田謙一 ht…

田家 康
1年前
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書評:Z世代の人生観・処世感「映画を早送りで観る人たち」

帯に「現代社会のパンドラの箱を開ける!」とあるが、たしかに衝撃的な世代論だった。 私自身、映画・動画を早送りでまったく観ないわけではない。飛ばしながら観ることも…

田家 康
2年前
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北京五輪での羽生結弦選手の選択

2月10日の北京五輪男子フィギュアスケートのフリーでの羽生結弦選手は立派だったけど、試合前から「勝つのも大事だけど、記憶に残る」ことを目指していたように思える。 …

田家 康
2年前
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書評『ホーキング、ホーキング』

原書は「Hawking, Hawking」で、「Hawk」には行商という意味があるということから、原題は「ホーキングを売り歩く」とも読める。 本書を読んで合点がいったことがいくつも…

田家 康
2年前
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書評『起業の天才』:江副浩正は「リクルート事件」がなくとも、バブル崩壊で経営者の座を降りていただろう

冒頭に瀧本哲史氏のインタビーを載せ、「顕教」と「密教」という例えで江副の二面性を示している。本書の大筋は前者の「来るべき情報化社会の先頭に立つ」との姿を描き、得…

田家 康
3年前
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今の日本に英雄は必要か

アンドレアが「英雄のいない国は不幸だ!」と叫ぶと、ガリレイは返す。「違うぞ、英雄を必要とする国が不幸なんだ」(ベルトルト・ブレヒト「ガリレイの生涯」第13場) ペ…

田家 康
3年前
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巨視的物理学での人間主義と量子論での多世界解釈:須藤靖著『不自然な宇宙』

量子論では粒子は一点に存在しつつ、確率的な広がりがあるということが、各種の実験結果で実証されている。どうしてそうなるかは誰もわからないが、唯一説得力のある仮説が…

田家 康
3年前
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政治システムとは:北岡伸一著『明治維新の意味』書評

タイトル通り、明治維新の意味を問う良書。結論は「明治維新の最大の目標は日本の独立であり、日露戦争の勝利によって、元老の役割がほぼ終わったのは自然なことだった」と…

田家 康
3年前
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「おかえりモネ」での亮のお父さん

NHK朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」で百音の同級生の及川亮が遠洋漁船の船員なるが、その父・新次の事情について、実務経験者として解読します。 番組では、 ・亮のお…

田家 康
3年前
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Brain Computer Interfaceが作り出すクラウド内の集団意識

『2030年』に出てくる「空飛ぶ車」「量子コンピュータ」「仮想現実と拡張現実」「長寿・不死」「宇宙への移住」あたりは、さほど新鮮味を感じなかった。 ところが、手短な…

田家 康
3年前
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フェルミのパラドックス(広大な宇宙なのに、なぜ宇宙人は交信して来ないのか)

「宇宙は広大で無限の星があるのに、どうして彼らは地球にコンタクトして来ないのだろう」 物理学者エンリコ・フェルミのパラドックスにSFの巨匠3人が挑んでいる。 アーサ…

田家 康
3年前
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日本の先進技術とは?

話題の書『2030年』の巻末解説で、ベンチャーキャピタリストの山本康正が書いている。 「国内メディアだけで過度に大きく扱われている日本のスーパーコンピュータ『富岳』…

田家 康
3年前
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本年読んだ本ベスト3作(4作)

今年は126冊ほど読みましたが、良かった本3冊(4冊)をアップします。英語書や出版年が古いものは避け、分野を違えていますので、順不同です。
『人類の起源』篠田謙一
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2022/02/102683.html
本年のノーベル医学生理学賞の受賞者はスヴァンテ・ペーボ博士で、「絶滅したヒト科動物のゲノムと人類の進化に関する発見」が受賞理由だ

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書評:Z世代の人生観・処世感「映画を早送りで観る人たち」

帯に「現代社会のパンドラの箱を開ける!」とあるが、たしかに衝撃的な世代論だった。

私自身、映画・動画を早送りでまったく観ないわけではない。飛ばしながら観ることもある。特にブルーレイで録画しているときなどそうだ。料理を作ったり、食器を洗ったりの、「ながら視聴」もある。

映画だけでなく、本を読むのも「倍速読書」もしている。ページをめくりながら、目に飛び込んでくる活字の箇所を読むというやり方だ。

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北京五輪での羽生結弦選手の選択

2月10日の北京五輪男子フィギュアスケートのフリーでの羽生結弦選手は立派だったけど、試合前から「勝つのも大事だけど、記憶に残る」ことを目指していたように思える。

日本では「試合で誰も成功していない」として4A(10.0)をマスコミは大きく取り上げたけれど、4Lz(11.5)だけでなく4F(11.0)や4Lo(10.5)よりも基礎点が低い。つまり、ハイリスク・ローリターンの選択だった。

2018

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書評『ホーキング、ホーキング』

原書は「Hawking, Hawking」で、「Hawk」には行商という意味があるということから、原題は「ホーキングを売り歩く」とも読める。

本書を読んで合点がいったことがいくつもある。1987年に出版された『宇宙を語る』はベストセラーになり、彼を著名人に仕立て上げたのだが、この時に既にホーキング自身は45歳だった。理論物理学者としては研究の最前線から後進の育成に軸足を移す頃だ。実際、彼の理論物

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書評『起業の天才』:江副浩正は「リクルート事件」がなくとも、バブル崩壊で経営者の座を降りていただろう

冒頭に瀧本哲史氏のインタビーを載せ、「顕教」と「密教」という例えで江副の二面性を示している。本書の大筋は前者の「来るべき情報化社会の先頭に立つ」との姿を描き、得難い人物として「天才性」を浮かび上がらせる。一方で、後者の「こすっからく儲ける」という姿も忘れずに書いている。採用情報などを利用した株の空売りは兜町では「仕手筋」と見られ、後に不動産投機に走った。物には表と裏があるというのはよく言われる。本

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今の日本に英雄は必要か

アンドレアが「英雄のいない国は不幸だ!」と叫ぶと、ガリレイは返す。「違うぞ、英雄を必要とする国が不幸なんだ」(ベルトルト・ブレヒト「ガリレイの生涯」第13場)

ペリクレスの陰画のようなアルキビデアスの人生について、アリストファーネスは戯曲『蛙』で語る。「アテネでは、ライオンを育てるべきではなかった。だが、育ってしまったからには、アテネはライオンにやりたいようにやらせるしかない」(塩野七生『ギリシ

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巨視的物理学での人間主義と量子論での多世界解釈:須藤靖著『不自然な宇宙』

量子論では粒子は一点に存在しつつ、確率的な広がりがあるということが、各種の実験結果で実証されている。どうしてそうなるかは誰もわからないが、唯一説得力のある仮説がヒュー・エヴェレットの多世界解釈だ。

一方、巨視的物理学では自然界の物理定数がどうしてこんなに都合の良い数字で出来ているのかという点に悩まされてきた。ほんの少し数字が違っただけでも、われわれの世界は崩壊する。この点について、多世界(マルチ

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政治システムとは:北岡伸一著『明治維新の意味』書評

タイトル通り、明治維新の意味を問う良書。結論は「明治維新の最大の目標は日本の独立であり、日露戦争の勝利によって、元老の役割がほぼ終わったのは自然なことだった」となるが、以下の2つの点が印象深かった。

・江戸時代の日本ではリーダーが武士であり、すでに相当サラリーマン化していたものの、それでも軍事的な視点は失われなかった。軍事的な視点からペリーやプチャーチンを見て、日本は勝てないとただちに理解した。

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「おかえりモネ」での亮のお父さん

NHK朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」で百音の同級生の及川亮が遠洋漁船の船員なるが、その父・新次の事情について、実務経験者として解読します。

番組では、
・亮のお父さんは、魚群を素早く探す優秀な漁師であった。
・しかし借金がかさみ、百音のお父さんが説き伏せて漁船を処分させた。
・今は、「俺に船さえあれば」と飲んだくれている。
というもの。

実は、こういう事例はいくらでもあるのです。漁師は融資

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Brain Computer Interfaceが作り出すクラウド内の集団意識

『2030年』に出てくる「空飛ぶ車」「量子コンピュータ」「仮想現実と拡張現実」「長寿・不死」「宇宙への移住」あたりは、さほど新鮮味を感じなかった。

ところが、手短な技術革新としての「3Dプリンティング」の話題と、壮大な未来像という意味での「Brain Computer Interface:BCI」に関心が向いた。

現在、粘土細工を作るような3DプリンティングはAmazonで8万円程度の値段で売

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フェルミのパラドックス(広大な宇宙なのに、なぜ宇宙人は交信して来ないのか)

「宇宙は広大で無限の星があるのに、どうして彼らは地球にコンタクトして来ないのだろう」
物理学者エンリコ・フェルミのパラドックスにSFの巨匠3人が挑んでいる。

アーサー・C・クラークは『幼年期の終わり』で、既に地球に到来しており、われわれは目撃しているとした。

スタニスワフ・レムは「新しい宇宙創造説」(『完全な真空』所収)の中で、地球文明を超える存在は敢えてコンタクトを取ろうとしないと主張する。

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日本の先進技術とは?

話題の書『2030年』の巻末解説で、ベンチャーキャピタリストの山本康正が書いている。
「国内メディアだけで過度に大きく扱われている日本のスーパーコンピュータ『富岳』は、海外ではほぼ重要視されていない。Google などはスーパーコンピュータではなく、量子コンピュータに力を入れている」。
役所やマスコミの文書の枕詞には「日本の先進技術を用いて」などという表現をよく見るが、昔からそのようなものはない。

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