書評『ホーキング、ホーキング』

原書は「Hawking, Hawking」で、「Hawk」には行商という意味があるということから、原題は「ホーキングを売り歩く」とも読める。

本書を読んで合点がいったことがいくつもある。1987年に出版された『宇宙を語る』はベストセラーになり、彼を著名人に仕立て上げたのだが、この時に既にホーキング自身は45歳だった。理論物理学者としては研究の最前線から後進の育成に軸足を移す頃だ。実際、彼の理論物理学での重要な成果は1970年代で終わっていた。その時代、彼は確かにブラックホール研究の中心にいた。「ホーキング放射」は素晴らしい業績だったとされる。だが、1980年代後半以降、とりわけ超弦理論や宇宙背景放射、そしてダークエネルギーが大きなテーマになっていく時代になると、彼は最前線の科学者とは言えなくなっていった。

にもかかわらず、彼は『宇宙を語る』で出版社が企画した車椅子の天才という形での偶像化に応じた。その理由は、金が必要だったからだ。ALSの看護費は莫大だった。その後のホーキングの生活が素晴らしかったかというとそうとは言えないだろう。離婚を経験し、ALSによる身体的な衰えも深刻の度を増すばかりだった。

ホーキングの最大の悲劇は、ニュートンやアインシュタインと並ぶ科学者に祭り上げられたことだ。彼の業績については、「20世紀の偉大な物理学者12人を選ぶとして、かすりもしない」ものだという。にもかかわらず、一般社会ではそのように受け止められている。彼自身、何度もそのような意見を「くだらない」と否定し続けたが、彼はウエストミンスター寺院でニュートンやダーウィンの至近距離に埋葬されてしまった。

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