巨視的物理学での人間主義と量子論での多世界解釈:須藤靖著『不自然な宇宙』

量子論では粒子は一点に存在しつつ、確率的な広がりがあるということが、各種の実験結果で実証されている。どうしてそうなるかは誰もわからないが、唯一説得力のある仮説がヒュー・エヴェレットの多世界解釈だ。

一方、巨視的物理学では自然界の物理定数がどうしてこんなに都合の良い数字で出来ているのかという点に悩まされてきた。ほんの少し数字が違っただけでも、われわれの世界は崩壊する。この点について、多世界(マルチバース)という考え方で解決しようとする。

ただし、著者は慎重なスタンスを崩さない。
・そもそも、宇宙が誕生する前に究極の法則が存在するという考え方すら不自然かもしれ
ない。抽象的な物理法則と具体的な宇宙という実在とは、不可分であり同一なのかもしれ

ない。

・ 正解はわからない。宇宙の誕生が必然であっても偶然であっても、物理学そのものに直

接影響を与えることはなさそう。 

なお、本書は2017 年後期に東京大学駒場キャンパスでの教養学部を対象とした学術俯瞰講座(3 回)の我々の宇宙からマルチバースへ」がベース。http://ocw.u-tokyo.ac.jpcourse_11402

から視聴できる。

もっとも、本書のほうがはるかにわかりやすくまとまっている。

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