本年読んだ本ベスト3作(4作)

今年は126冊ほど読みましたが、良かった本3冊(4冊)をアップします。英語書や出版年が古いものは避け、分野を違えていますので、順不同です。 
『人類の起源』篠田謙一
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2022/02/102683.html 
本年のノーベル医学生理学賞の受賞者はスヴァンテ・ペーボ博士で、「絶滅したヒト科動物のゲノムと人類の進化に関する発見」が受賞理由だった。この分野の成果を解説した新書が本年初めに出版されており、大変わかりやすく、時期にかなってもいる。日本人の源流について中国東北部の西遼河とし、この地域は雑穀農耕の文化の持主だったが、朝鮮半島に移住して南方の水稲栽培を学び、その技術を携えて3000年前に九州に渡来したという。
 
『成長の臨界』河野龍太郎
https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766428346/
フリードリッヒ大王の名言に「全てを守ろうとする者は、なにひとつ守ることはできない」があるが、日本の「失われたX年」はこの通りだったのかもしれない。ポピュリズムに満たされた日本の政治は、すべてを守ろうとし、国力は沈んでいった。アベノミクス以降の政治はその典型だ。完全雇用を達しても保護政策を続け、成長性の低い企業も生きながらえた。転職でより高収入の機会を得るべき労働階層も、保守的な人生観で雇用維持をよしとした。
リベラル民主主義の陥穽として、「誰か(ある階層)を犠牲にして、全体が向上する」という方策を取れないことにあるという。現代民主制以前であれば、伝統社会・宗教・道徳が、全体のために個を犠牲にすることを可能にしたが、これがもはや許されない。日本の将来の暗さの根源もここにある。
 
『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』麻布競馬場
『映画を早送りで観る人たち』稲田
2冊合わせてベスト3のひとつとしました。今年は、日本社会が根本的に変わったことをはっきりと気づかされた年だった。
中流の崩壊というのは所得階層の話ではない。『この部屋…』で語られるのは、そこそこの大学を卒業して東京で活躍しようにも、親から資産やコネを受け継いだ親ガチャや圧倒的な能力を持つ極めて限られた層に対して、競争で勝っていくのはかなわず、埋没していくしかないという冷徹な現状を描いている。
『映画を…』では「絶対に外れを引きたくない」という感性から、コスパ・タイパが生きていく基本理念になっている現実を示す。ストレスを回避するあまり、他人に干渉せず、批判もダメ出しもしない・されることもない。一見して「他者」を尊重しているように見えるが、そこには「自分と異なる価値観に触れて理解に努める」という行動が欠けている。単に関わり合いを避けているという。

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