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外国語教育_at my desk

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外国語教育について考えた・考えてる・考えるために書いた こと
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#英語学習

『英文法を哲学する』

『英文法を哲学する』

佐藤良明(2022)『英文法を哲学する』を拝読した。

今年読んだ英語関連本の中でもすこぶる面白かったので,もうすぐ出版から1年ほど経つようなタイミングではあるが簡単にまとめておきたい。
出来るだけ多くの英語教員に読んでもらいたい本なので,ギリギリ冬休みに間に合うように。

本書の基本スタンス-英語に乗る本書全体を通して佐藤は英語を日本語の枠組みから捉えることに否定的で,英語という言語に出会い,英

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学生からの質問「授業中に内職してる学生ってどうしますか?」

学生からの質問「授業中に内職してる学生ってどうしますか?」

教職の学生からふと雑談中に聞かれて、なんとなく自分の納得いく回答ができなかったなぁ、とモヤモヤしていたので改めてこの記事を書くことで自分の考えを整理してみようと思う。基本的に考えた順番に書き出していくので読みづらさはご勘弁いただきたい。

まず一つ、教職の学生たちが将来見ることになるであろう中高生と、私が今見ている大学生とでは、ちょっと考え方も変わってくるのかなというのは大前提にある気がする。
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佐藤・笠原(2022)『効果的英語授業の設計 ―理解・練習・繰り返しを重視して―』

佐藤・笠原(2022)『効果的英語授業の設計 ―理解・練習・繰り返しを重視して―』

はじめに前回、青木(1987)『いい授業の条件』について「期待していたよりずっと中身が軽い」と書いた記事を読んだ知人から、「めっちゃ昔の本だし大丈夫だと思うけど、こんなこと書いて怒られたりしないの?」と連絡をもらった。
私のnoteを読んだ上で、心配までしてくれる人がいるとは思わなかったので、ありがたい。
だが、(もしかしたら怒られることはあるかもしれないけど)怒られるようなことはしていないはずだ

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青木幹勇(1987)『いい授業の条件』国土社

青木幹勇(1987)『いい授業の条件』国土社

正直,期待していたよりずっと中身が軽い印象。いや,勝手に期待したこちらの問題でもあるのだけど,まえがきで「「いい授業」であるか,そうでない授業かは,いうまでもなく,子どもの側に立っての評価でなければなりません」と述べられている一方で,中身は筆者の主義の表明である部分が多い。筆者が確かに子どもたちの様子を見て「いい授業だ」と思えた経験から抽出した内容なのだろうが,どうしても説教臭く感じてしまう。

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英語学習はゲームなのだろうか?

英語学習はゲームなのだろうか?

平尾昌宏(2022)『人生はゲームなのだろうか?—<答えのなさそうな問題>に答える哲学』を読んだ。

この本をごく簡単に紹介した上で,「英語学習はゲームなのだろうか?」という問いに答えを出したい。

ゲームとは何か?ここでの「ゲーム」にはいわゆるスマホやゲーム機で遊ぶコンピュータゲームだけでなく,スポーツの試合やテーブルゲームも含む。

「目指すべき終わり」というのは,相手に勝利するとか,高いスコ

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ピア・フィードバック

ピア・フィードバック

こちらの本を読んだ。

この1年ぐらい,生徒主体の活動を中心に英語の授業(特にリーディング)を構成してきたつもりだが,その中で彼らにフィードバックを返すのは決まって私だった。

秋頃にやったライティングで初めて個々の成果物(または制作途中のもの)を全体にシェアして,「他の人のを読んで,自分のライティングの改善点があったら直してみよう」という形を取ったが,それも他の生徒から直接フィードバックを与えら

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中学英文法「意味順」ドリル

中学英文法「意味順」ドリル

今年9月、以下の二冊のドリルが発売された。

この本についての詳細は著者のお一人である奥住先生が色々と書いているし,YouTubeでの対談もさせていただいたのだが,ここでは一人の英語教師としてのこのドリルに対する考え方を書いていく。

教材の目的全ての教材に言えることだが,数ある教材の中からその教材を選ぶ「目的」の明確化は非常に重要だ。中学校・高校で「文法ワーク」「文法参考書」的な教材を使用すると

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英検ライティングと,卒・英検ライティング

英検ライティングと,卒・英検ライティング

英検フォーマットの功罪一口に英検フォーマットと言っても,きっと色々あるのだろう。
ここでは下に書いたものを「英検フォーマット」とし,その功罪をまとめる。

白か黒かを求める

何かの問題に対して「白か黒かで答えろ」というのは「難題」であることをミスチルを聴かない私でも知っているし,「白と黒のその間に無限の色が広がってる」ことはミスチルを聴かないけど,勤務校のYouTubeのサムネ作りのためにカラー

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杉田由仁(2021)英語授業における「言語の使用場面」と「言語の働き」活用ガイド

杉田由仁(2021)英語授業における「言語の使用場面」と「言語の働き」活用ガイド

こちらの本を読んだ。

学習指導要領に掲載される「言語の使用場面」と関わる諸概念を提案するとともに,学習指導要領に不足している具体的な言語使用例と指導方法を提案する本。
学習指導要領を見てもどう指導したらいいのか分からないという趣旨の批判が述べられる序盤は,「学習指導要領に指導方法なんて書かれたら嫌だけどね」と思いながら斜めに読み飛ばしたのだが,本書で紹介されている指導例(後述)が仮に指導要領に掲

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『英語教師を変える楽しい学び直し』

『英語教師を変える楽しい学び直し』

登田龍彦(2021)『英語教師を変える楽しい学び直し 自律的学習を導く語彙・文法指導の原点』 を読んだ。

「ことば(母語そして外国語)への気づきを通して,自律的学習のできる子どもを育てる」(p. 279: 強調引用者)という筆者の目的の達成への道は決して楽ではなさそうだが,英語学を軽くかじってから英語教師になった自分としては総じて面白く読めた。

本記事では本書の中から特に英語教師全体に共有され

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松岡亮二(編著)『教育論の新常識 格差・学力・政策・未来』

松岡亮二(編著)『教育論の新常識 格差・学力・政策・未来』

学校教育における「格差」「学力」「政策」そして「未来」に関わる計20もの章があり,どの章が「必読」であるかは人によるところはあるでしょうが,私の雑な感想を一言で言えば,学校教育の話をする可能性のある人全員に読んでもらいたい本です。

GIGAスクール構想であれ,コロナ対応のオンライン授業であれ,大学入試であれ,21世紀型スキルの教育であれ,何を話題にするにしても本書の内容(またはそれに近いもの)を

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『民主主義の育てかた』読書会 #5

『民主主義の育てかた』読書会 #5

神代(2021)『民主主義の育てかた』の読書会。前回の記事から時間が空いたが第4章・古里貴士「公害教育論—生存権・環境権からのアプローチ」を見ていく。

全体としては今流行りのESD(持続可能な開発のための教育)を捉え直すべく,戦後教育学における「公害と教育」問題を取り上げているが,やはり英語教育を中心として言語教育に関わる人間の集まる読書会というだけあり,言語教育の抱える課題に即して捉えられる部

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『なんで英語,勉強すんの?』

『なんで英語,勉強すんの?』

朝の小一時間でサラッと読んでとりあえず学級文庫に置くことを決定。

タイトルにある問いに直接的に理屈で答えるというよりは,「結局『なんで英語,勉強すんの?』ってことが知りたいわけじゃなくて,『英語,よく分からないし大変だから勉強したくない』って言いたいんでしょ」という雰囲気で,どうしたら楽しく英語が勉強できる(可能性がある)かを筆者の学生時代のエピソードや若者に流行りのアーティストなんかにも触れな

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水本篤先生の「語彙学習方略の理論と実践」を聞きました。

水本篤先生の「語彙学習方略の理論と実践」を聞きました。

大阪大学マルチリンガル教育センター公開講座「英語教育オンラインセミナー」の第5弾,水本篤先生の「語彙学習方略の理論と実践」を聞きました。

今回も聴きながら(紙のノートではなく)note上にメモしていくスタイルで,英語教師として特に押さえておくべきだろうと感じた部分を中心にまとめています。

学習スタイルとの違いと関係性学習者の中には情報を視覚で処理するのが得意な人,聴覚で処理するのが得意な人,実

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