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全駅収録!埼玉、東京、神奈川…首都圏鉄道沿線ご当地怪談『京浜東北線怪談』編著者コメント+大宮の収録話「陽気な男たち」全文掲載

全駅収録!
埼玉、東京、神奈川…鉄道沿線の身近な怖い話


あらすじ・内容

東北本線、東海道本線の一部と根岸線を走る通称京浜東北線沿いに広がる街々に潜む不思議や恐怖79篇を全駅にわたり掲載した首都圏ご当地怪談集!

大宮のビル群に浮かぶ漆黒の異形

死霊が蠢く赤羽の旧水門

怪奇現象が相次ぐ上野の某医院

品川にある異空間に繋がるコインロッカー

飛び込む女の霊が目撃される鶴見の踏切

横浜の某ホテルに霊が多数出没

妖怪か!?巨大蛙と黒い女が出現する南浦和の池

西日暮里の線路沿いで江戸川乱歩が見た幽霊

高輪ゲートウェイにある事故物件多発マンションの真相

無惨にも頭が潰れた男が出没する川崎のアパート

埼玉の大宮を発して東京都心部を縦貫し、横浜を抜けて大船へ至る首都圏の通勤通学の要「京浜東北線」。その沿線に広がる街に潜む怪奇譚の数々を、気鋭の怪談師たちが徹底取材し完成した一都二県のご当地怪談集。
・図面には存在しない謎の空間がある厭な家の恐怖「変な間取り」(
・平安時代の装束を纏った恐ろしい異形の男が現れる「飛鳥山公園」(王子
・過去テレビにも取り上げられた怪奇現象が多発する最恐ゲーセンの顛末「ゲームセンター」(蒲田
・バスに乗ってタイムスリップ!?時空を超える不思議な旅「バスの行先」(大船
――など、沿線の怪異・全駅収録

編著者コメント

 このたび、怪談師たちが血の汗を流しながら書きあげた『京浜東北線怪談』が刊行されます。
 誰もが耳にしたことのある駅名が並ぶ京浜東北線。それら各々の地域で起こった怪異を書き記したいわゆる【ご当地・路線シリーズ】ですが、活躍中の怪談師たちが集まった甲斐あって、全駅制覇という豪華ぶりとなりました。
 怪談を愛する者たちはそれぞれ「好み」が存在します。なぜその体験を怪異と判断したのか、その話のどこに恐怖を感じるのか、それぞれです。怪談を聴く、あるいは怪談を読むことに愉悦を覚えている皆さまにとってはそれら「好み」すらも興味深いことでしょう。
 恐怖を感じながらも楽しんで頂ければ幸いです。深夜のお供に、または実際に京浜東北線の電車に揺られながら、ご堪能くださいませ。

編著者・糸柳寿昭より

試し読み1話 

陽気な男たち (大宮)

千山那々

 その日、Yさんは彼女の買い物に付き合って荷物持ちとして大宮までついてきた。
 駅ビルに入るショッピングセンターを一緒に回っていたが、まだしばらくかかるという。
 彼はひとり喫茶店に入り時間を潰すことにした。
 そこは彼のお気に入りの店で、値が張るけれども上質な珈琲を提供する。
 店内は狭いながらに多くの客で賑わっていた。
 Yさんは奥の二人がけの席へと通された。飲み物を注文し一息つく。
 すると、背中側のボックス席から弾けるような笑い声が聞こえてきた。
 くもりガラス調のパーテーションがあり、はっきりとした姿までは見えない。
 シルエットと声で判断するに四、五人の中年男性グループだろう。
 敬語と友だち口調が混ざっているがずいぶんと仲が良さそうだ。
 雰囲気から察するに同じ会社の先輩後輩だろうかと想像した。
(男同士で集まって楽しそうでいいな)
 そんなことを考えながら彼らの会話を聞くともなしに聞いていた。
 すると、男の一人がはっきりと言った。
「挟まれて内臓が出て死んでしまいました、皆様大変お世話になりました」
 Yさんはその言葉に度肝を抜かれた。聞き間違えではない。たしかにそう言った。
 その言葉を受けて残りの男たちも、
「あはははは」と大声で笑いながら、ひどく面白い言葉を聞いたかのようにおかしげに手を叩いている。
「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」彼らは口々に言った。
 男たちの陽気な雰囲気、場にそぐわない気味悪い言葉。
 矛盾する情報にYさんはすっかり困惑した。
 思わず席を立って彼らの姿を直接確かめようとした。だが、
「ではいきましょうか」
「そうだね」
 そう言って彼らは消えてしまった。

―了―

★著者紹介

植島雅 (うえじま・まさ)

神田の喧騒と趣が好きな怪談師。メディアやイベントなど、多数出演。ネットラジオで聞いた実話怪談に影響を受けて怪談収集をはじめる。丁寧に紐解かれた体験談と重厚感のあるリアルな語り口が特徴。怖さ以外にも不可思議な話や人間味のある話に定評がある。

木根緋郷 (きね・ひさと)

蕨の古着屋が好きな怪談師。北海道うまれ岐阜育ち。怪談イベント「木根緋郷の傀」主催、傀長。YouTube チャンネル「怪談の根っ子」ではオカルトファッションユーチューバーとして活動する。

小森躅也 (こもり・たくや)

上野公園の展覧会が好きな怪談師。15歳での初舞台を機に、演劇で青春時代を謳歌する。喜劇を中心に舞台演出/ 脚本/ 企画を担当。地元を離れてから「笑い」と「怖さ」が同じであることに気づき、簡単にできるだろうと舐めた態度で怪談中心の活動家になる。最近、寝ている時間に「足音が煩い」と下の階の人から怒られた。

千山那々 (ちやま・なな)

赤羽のパン屋さんが好きな怪談師。沖縄出身、ユタの血を引く語り手にして怪談作家。TV、ラジオ、雑誌などあらゆるメディアに出演するマルチクリエイター。弁護士秘書という職務上、多くの怪事件を取り扱ってきた。怪談は浪漫、オカルトには懐疑的というスタンスをとりながらも日々実在する怪異を探究している。取材した心霊スポットは百を超える。

松永瑞香 (まつなが・みずか)

川崎に素敵な思い出がある怪談師。看護師。東アフリカ・タンザニアで看護師として活動し、その後現地の呪術師に弟子入りする。それらの経験からアフリカの呪術や怪談を語る。2023 年竹書房怪談文庫presents 怪読戦にて優勝。映像制作もしており、東京ドキュメンタリー映画祭2022 にて「呪術師の治療――タンザニア」が上映されるなど異色の経歴の持ち主。共著に『実話怪談 恐の家族』など。

宮代あきら (みやしろ・あきら)

上野の飲み屋が好きな怪談師。2020 年7月から怪談活動を開始。不定期に怪談ライブを主催。日常に潜む怪異を好み蒐集している。怪談最恐戦2022 ではベスト4入り。2024 年から「怪談ライブBar スリラーナイト 歌舞伎町店」に所属。

宜月裕斗 (よろづき・ひろと)

蒲田の公衆トイレが好きな怪談師。看護師として医療に携る傍ら、医療現場で起きた不可解な怪異を蒐集している怪談看護師。配信、イベントにて看護師のリアルな体験を語っている。

糸柳寿昭 (しやな・としあき)

怪談社所属、怪談の人。京浜東北線、全駅を愛する怪談師。おもな著作

シリーズ好評既刊

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