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【掌編】雨上がりのカメレオン
幻覚を見ているのかと思った。
車窓には呆けた顔をした自分の姿が写っている。
『俺』は目を細めた。
雲の下、ぼやけた夕日の遠景を突っ切って二輪を走らせているのは、あれはマイケルだ。
一緒に買った悪趣味な黒と赤のヘルメットを見ればわかる。
「大アホめ」
思わず小さく呟いて巡ってくる記憶をかき消す。
俺たちは困難へ向かっていく。どちらも、どこにいてもただ息をしているだけでも。これまでのよう
コロコロ変わる名探偵
「犯人は、あなただ!」
名指しされたのはA子。しかし、探偵の推理には欠陥があった。
「それでは、あなたが犯人というわけだ」
B夫はうんざりした顔で、首を横に振った。またも推理は破綻していた。
「なるほど、読めてきましたよ。あなたが犯人ですね?」
C美はネイルを点検しながら、根拠資料の提出を求めた。そんなものはなかった。
「最初から分かっていたんだ。犯人は、あなた以外にいない」
D氏は探偵を
アナログバイリンガル
祖母は魔女だった。わけのわからない言葉をたくさん使い、風や森や生き物たちと話をした。
姉たちは、そんな祖母の魔力を色濃く受け継いでいた。
長女のハルは、自然の言葉を使うことができた。風も土も水も火も、彼女の声に耳を傾けた。エレメンタル・バイリンガル。
次女のナツは、動物の言葉を使うことができた。カラスや猫、犬やカエルが友達だった。ワイルド・バイリンガル。
三女のアキはちょっと変わり種で、
【掌編】Over the head
「ときには背伸びをしてみることだ。そして気に食わない誰かに、その情けない姿を見られて笑われてみることだ。それであんたは、いくらかましになる。何年か経てば、すっかりまともになっているよ」
セイルズはそう言って、大道芸人がステッキを振り回すみたいにして煙管をくるくると回し、机の上でステップを踏んだ。
「気が進まないね」
私はそう言った。ろくでもない言葉だと自分でも思ったが、あいにく、私の声帯はいつ
【掌編】Lost Friday under the rain
雨に濡れた飛べない鳥みたいにして、マミはじっとこちらを見ていた。惨めな風采。
見ていた、のだと思う。私は間違っても視線を合わせないように、彼女の姿を視界の端の方、端の方へと寄せていたから、本当のところはわからない。ただの過剰な自意識かもしれない。まあけど多分、見ていた。後ろにいても、うなじのあたりにレーザーを撃たれているような感覚。
私はマミのことが嫌いになったのではない。マミだって私のこ