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しゃべるピアノ

 私はパネルボードに大きな字で質問内容を書き、彼に見せた。彼は嬉しそうに頷いた。そして私と同じようにペンを動かし、ボードをくるりと回した。
――聞こえます。
 私は頷き、次の質問を書きつける。
――それは比喩的な意味でしょうか? それとも本当に聞こえるのですか?
 彼は穏やかな笑みを顔全体に湛えたまま、次の言葉を綴った。
――本当に聞こえます。私が迷ったとき、彼女はその音を教えてくれるのです。次に配されるべき正しい音符の位置をです。

 彼は聾者の作曲家だ。ごく凡庸な調律師として三十年を過ごした後、何の前触れもなく聴覚を失った。原因はわかっていない。それから突然、彼は作曲を始めた。いまでは世界屈指の名作曲家と呼ばれている。

「あなたは信じるの?」
 妻が訊いた。
 彼がとても優しい目で鍵盤に指を触れ、口元を動かしながら楽譜にペンを走らせている姿を想像した。それはとても自然な光景だった。

「うん」と私は応えた。

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