数学ギョウザ
「うん、いいな」
「ありがとうございます」
男はぱりぽりと、ロシア文学の酢漬けを食べながら言った。
「これぞまさしく『おおきなかぶ』。よきものは、古きもの、だ」
続けて男は、歴史学の和え物を口に運んだ。
「悪くない。ノブナガの切れ味と、ナポレオンの勝ち味が絶妙に合う」
次に運ばれてきたのは、湯気を立てた地質学の煮っころがし。
「いい花崗岩を使ってるな、それから、隠し味は翡翠か」
「さすがです」
「ふふん。まだまだわしも現役よ」
次に用意されたのは、数学の餃子である。
おいおい、と男は声を荒げた。
「この流れで、餃子かよ」
「はあ」
「心理学の刺身とか、経済学の網焼きとかさ」
男はぶつぶつ文句を言いながら、餃子を箸で摘んだ。
「む……、この円周率、精度がいいな」
「測りたてです」
口に含むとすぐ、男の表情が変わった。
「おい、まてよ、この餡は……まさか……」
給仕がにやり、と笑った。
「フェルマーの最終定理、300年ものにございます」
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