有馬貴臣

主に露・羅・伊・仏・英語などの古い書籍や書簡などを翻訳しています。仕事が多くあまり更新…

有馬貴臣

主に露・羅・伊・仏・英語などの古い書籍や書簡などを翻訳しています。仕事が多くあまり更新ができないのは申し訳のないことですが、マイナーな翻訳ながらも読んで下さる方がたくさんおられ、いつも感謝しております。なお、アイコンはXよりちゅんちゅん氏(@Tyuntyun_77)作です。

記事一覧

スヴォーロフ は“wyrk” という単語をその例に挙げ

「よくわからない言葉や発音しにくい単語を伝令などで使う者はこれを罰する」と、スヴォーロフ は書いています。特に後者が重要であるのは、やはり多民族に共通の言葉での…

有馬貴臣
2年前
1

「これはこれでいいのです」

作家の稲垣足穂の晩年、友人が訪ねてみると、彼はあまり衛生的ではない、虱の湧いた床の中で本をじっくりと読んでいて、友人が「誰の本か」と尋ねたら、彼は「自分の本だ。…

有馬貴臣
2年前
1

『スヴォーロフ 』(”Суворов” ,1941)という映画

かなり昔の話ですが『スヴォーロフ』(”Суворов” ,1941)という映画を観る機会がありました。主演の俳優さんの風貌が「まさしくスヴォーロフ将軍!」という方で、…

有馬貴臣
2年前
2

ぽっくりもこっぽりも

「普段から靴ばかり履いています」というのも当たり前なんですが、休みの日になりますと下駄を出しては履いて近所を散ら歩くのが好きです。 そういえば私の育った土地では…

有馬貴臣
2年前
1

「炎暑」などという単語が散ら散らと

酷暑、猛暑など言葉は多々ありますが、本当に暑い日が続いております。あちこちの友人たちも挨拶がわりに「暑い」と。四、五百年前に書かれた『鹿苑日録』などにも夏の暑さ…

有馬貴臣
2年前
2

ああいうものは降ってきたように「ふわり」と

何の変哲もない日常のことなのに、大変に色気のある文章を書いておられる方がたまにおられます。文章に限らず、味わいのある立ち振る舞いというか、まさにそれぞれですが、…

有馬貴臣
2年前

「名残り」という言葉

つい先日に外国の友人から、 「この”Nagori”という言葉はどう訳せばいいか」 と尋ねられ、さて、どうしたらわかりやすいかと考えてみましたが、じっくりと「名残り」とい…

有馬貴臣
2年前

日記(2022/02/21)

縁の深い人々からデジタル媒体で写真や近況が送られてくるが、双方に手紙や小包を送ることが困難になり久しい。手書きの文字には力があると思っていたが、皮肉にもこういう…

有馬貴臣
2年前
+3

サン=ジュストからロベスピエールへの最初の手紙(1790年8月19日)仏語からの日本語訳

有馬貴臣
3年前
4

この度翻訳したスヴォーロフの書簡(1775)の一部抜粋

 この報告書(原文訳部分は4ページ)を翻訳するのに際し、最も困難であったことは当時の背景を考慮しつつ口語体を読解したこともありますが、部分部分の単語を精査するこ…

有馬貴臣
3年前
1
+5

アストラハンより陸軍少将スヴォーロフが皇帝エカチェリーナ2世に送った、主として〘軍馬の飼料の供給困難とその原因に関する考…

100
有馬貴臣
3年前

仕事と結石の治療で長らく何も書けませんでしたが、二、三日中にスヴォーロフの報告書を上げたいと思います。1775年の飼料問題についてのものですが、やはり相変わらずの口述筆記でした。が、内容は理路整然としています(写真は「まだ雪の残る昨年四月のアルプス」です)

有馬貴臣
3年前

1795年に描かれたスヴォーロフの素描

有馬貴臣
3年前

私見。ゆっくり翻訳をやってますと、スヴォーロフの人柄もそこまで無礼ではないが、言葉や文法が無骨であるため誤解も多いと感じますし、むしろ気骨が伝わってきます。が、意見書や上奏書には気遣いと感情の両方が見え、訳もまたより難解、読み解くのは更に楽しいですね(2021/05/04)

有馬貴臣
3年前

アストラハン地方の冬

有馬貴臣
3年前
1

実際にこのように翻訳をやっていて一番嬉しいのは、それを読みたかった方々の手に渡ったときや、それがなんらかの役にたったときです。大きな笑顔を頂きました。心より御礼を申し上げます。有馬貴臣(2021/04/30)

有馬貴臣
3年前
1

スヴォーロフ は“wyrk” という単語をその例に挙げ

「よくわからない言葉や発音しにくい単語を伝令などで使う者はこれを罰する」と、スヴォーロフ は書いています。特に後者が重要であるのは、やはり多民族に共通の言葉での意思疎通ということなどが要因であったと推察できます。

と、書いているのは、つい先日に差し歯が2本抜け、この状態で喫茶店などに入り、ややこしい名前の飲み物を注文したら、数店で数度も聞き返されました。現代でもこれ、ましてや当時は歯が2本どころ

もっとみる
「これはこれでいいのです」

「これはこれでいいのです」

作家の稲垣足穂の晩年、友人が訪ねてみると、彼はあまり衛生的ではない、虱の湧いた床の中で本をじっくりと読んでいて、友人が「誰の本か」と尋ねたら、彼は「自分の本だ。文章が美しい」と言ったといいます。
芭蕉の「蚤虱馬の尿する枕もと」という俳句から一種の安堵や人間の生活という解釈を見出した方もおられるように、足穂はナルシシズムを超えて晩年、自らの足跡を見つめ直すことに安らぎを感じていたと思えばこの話は本当

もっとみる

『スヴォーロフ 』(”Суворов” ,1941)という映画

かなり昔の話ですが『スヴォーロフ』(”Суворов” ,1941)という映画を観る機会がありました。主演の俳優さんの風貌が「まさしくスヴォーロフ将軍!」という方で、特に「部下に慕われて笑顔を見せる様」が印象的でした。
作品内ではパーヴェルを中心とした宮廷とスヴォーロフ両者にとっての「常識」のずれが衣服や調度品など細部にも見える、いつかまた観たい映画のひとつです。

2022/07/20

ぽっくりもこっぽりも

「普段から靴ばかり履いています」というのも当たり前なんですが、休みの日になりますと下駄を出しては履いて近所を散ら歩くのが好きです。
そういえば私の育った土地ではよく「ぽっくり下駄」というものを見かけましたが、いざ越した先では「こっぽり」という名前になるそうです。他にも呼び方はあると思いますが、ぽっくりもこっぽりもどちらものどやかな音ですね。
いつもありがとうございます。のんびりとした週末をお過ごし

もっとみる

「炎暑」などという単語が散ら散らと

酷暑、猛暑など言葉は多々ありますが、本当に暑い日が続いております。あちこちの友人たちも挨拶がわりに「暑い」と。四、五百年前に書かれた『鹿苑日録』などにも夏の暑さについて、毎日「炎暑」などという単語が散ら散らと出て参ります。そんな時のお寺の食事なども「うどんを食べた」など。少し微笑ましいですね。
何はともあれ暑中お見舞い申し上げます。

2022/06/30

ああいうものは降ってきたように「ふわり」と

何の変哲もない日常のことなのに、大変に色気のある文章を書いておられる方がたまにおられます。文章に限らず、味わいのある立ち振る舞いというか、まさにそれぞれですが、私はそれを「よい香りのする空気を一枚まとっている」と言うことが多いです。年齢などによらず、ああいうものは降ってきたように「ふわり」と本人の知らぬ間に身についているものなんだな、と思えば、自分にもいつか降ってくるかもしれないな、と。それくらい

もっとみる

「名残り」という言葉

つい先日に外国の友人から、
「この”Nagori”という言葉はどう訳せばいいか」
と尋ねられ、さて、どうしたらわかりやすいかと考えてみましたが、じっくりと「名残り」という言葉に向かい合って考えてみることも滅多となかったことに気がつきました。
「春の名残り」などと言いますが、「思い出」や「余韻」に近く、もっと感覚的な言葉。一言で説明できないから考えている間は楽しくもありました。

日記
2022/0

もっとみる
日記(2022/02/21)

日記(2022/02/21)

縁の深い人々からデジタル媒体で写真や近況が送られてくるが、双方に手紙や小包を送ることが困難になり久しい。手書きの文字には力があると思っていたが、皮肉にもこういう形で本当の意味がわかったようなと考えてみたら、ふと、放蕩息子とその父の気持ちを少し汲み取れるような気持ちになる。

疲れや心配が教えてくれることもある。願わくば、これが勘違いであって欲しくはない。

この度翻訳したスヴォーロフの書簡(1775)の一部抜粋

この度翻訳したスヴォーロフの書簡(1775)の一部抜粋

 この報告書(原文訳部分は4ページ)を翻訳するのに際し、最も困難であったことは当時の背景を考慮しつつ口語体を読解したこともありますが、部分部分の単語を精査することがとても難しい作業でした。一例としては、

“генера́л-анше́ф”(=General Anshefa)

は訳者が考察するに、

“général en chef”

というフランス語の発音に起因する単語と考えたとき、これを日

もっとみる

仕事と結石の治療で長らく何も書けませんでしたが、二、三日中にスヴォーロフの報告書を上げたいと思います。1775年の飼料問題についてのものですが、やはり相変わらずの口述筆記でした。が、内容は理路整然としています(写真は「まだ雪の残る昨年四月のアルプス」です)

私見。ゆっくり翻訳をやってますと、スヴォーロフの人柄もそこまで無礼ではないが、言葉や文法が無骨であるため誤解も多いと感じますし、むしろ気骨が伝わってきます。が、意見書や上奏書には気遣いと感情の両方が見え、訳もまたより難解、読み解くのは更に楽しいですね(2021/05/04)

実際にこのように翻訳をやっていて一番嬉しいのは、それを読みたかった方々の手に渡ったときや、それがなんらかの役にたったときです。大きな笑顔を頂きました。心より御礼を申し上げます。有馬貴臣(2021/04/30)