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「これはこれでいいのです」

作家の稲垣足穂の晩年、友人が訪ねてみると、彼はあまり衛生的ではない、虱の湧いた床の中で本をじっくりと読んでいて、友人が「誰の本か」と尋ねたら、彼は「自分の本だ。文章が美しい」と言ったといいます。
芭蕉の「蚤虱馬の尿する枕もと」という俳句から一種の安堵や人間の生活という解釈を見出した方もおられるように、足穂はナルシシズムを超えて晩年、自らの足跡を見つめ直すことに安らぎを感じていたと思えばこの話は本当にうらやましいものであると考えます。
さて、私の枕もとを見れば、付箋紙のたくさん貼られた訳しかけの書籍に『まさし君』などが山積しており、自分では「これはこれでいいのです」などと思ったりしています。それも気楽の形かな、と。

2022/10/01
有馬

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