街ルンバ (1分小説)
バナソニック製の自動掃除機「街ルンバ」の登場により、東京の街は、より一掃美しくなった。
犬のウンコ、おやじのタン、ひしゃげた吸殻。おびただしい数のゴミを吸い込んでゆく。
街の美化に比例し、なんだか最近、平和になったような気もする。
「オレオレ詐欺の首謀者のオレが、平和っていうのも変か」
その時。
オレの独り言を聞きつけてきたのだろう。
直径30センチ円盤型の街ルンバが、目の前に現れ、猛スピードで近づいてきた。
「ゴミ、ハッケン!」
電子音が鳴り響く。
【1年後】
あの日以降、オレは、街ルンバに身体を丸ごと吸引され、ミクロ状態にされたまま。
ある日。
街ルンバの排気口から、偶然にも歩道を歩く母さんを見かけた。
オレは、一緒に吸引された、ヤクザや半グレたちの制止を振り切り、ハンドルを握った。
「カアサン、オレ、オレ!」
母さんは、オレが発した電子音にキョロキョロしているが、まさか、自分の息子が街ルンバの中にいるとは気づいていない。
いっそ身体丸ごと吸い込んで、我が身に起きた理不尽を全部話してやろうか。
悪党どもが、そんなオレを口々に制した。
「ムダだ」
「善人を吸引することは、できない」
オレたちは、街の吸殻や落ち葉を吸引して、小さく点数を貯め続けるか、社会の悪人どもを吸い取って、一気に点数を稼ぐかしか、外界へは出られない。
「それなら、もっと劣悪な場所へ行った方が、早く自由の身になれるのでは?」
オレの提案に、みんな顔を見合わせた。
「国外か」
こうして、街ルンバは、北朝鮮行きの密航船に乗った。
【ピョンヤン】
大通りに着き、勢いづいたオレたちは、独裁者や工作員たちを、片っ端からガンガン吸い込んでやった。
「これぞ、どの国にも成し得なかった、北朝鮮の真の平和」
「たった一台の、日本製の街ルンバが現実化させた」
一日中走り回った疲労と高揚感で、ヨレヨレになりながら充電へ向かう。
…ガチャ。
コンセントに本体を差し込んだ途端、もともと薄暗かったピョンヤンの夜が、一気に真っ暗になった。
「停電だ!」
ジー、ジー、ジー。
その時、どこからともなく、オレたちとそっくりな外観をした街ルンバが目の前に現れた。
「发现了(見つけた)!」
中国製だ。
そして、ヤツは、猛スピードでこちらに向かってやってきた。
※フィクションです。
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