無限しりとり (1分小説)
跡取り息子がいない日本の家庭に、僕が、はるばるアフリカの地から、養子として迎え入れられた日。
「はやく日本文化に慣れなさいね。我が家では、200年間、ずっとしりとりを続けているんだよ。まだ誰も『ん』で終わらせていない」
古い巻き物には、ご先祖様たちが、しりとりで使った言葉がビッシリと書かれてあった。
オヤジは、3歳児の僕にルールを教えてくれた。
誰かが一度使った言葉は、二度と使えない。『ん』がついたら終了。でも、固有名詞はOK。パスはなし。
海外からやってきた僕には、特別、スマホで辞書アプリを使ってもよい許可を与えてくれた。
「では、昨日の続き。南十字星の『い』」
この日から、僕が、反抗期で、両親と会話をしなくなった今日までの15年間。
しりとりだけは、きっちりと毎日続けられている。
【病室】
オヤジが突然倒れた。医者に聞けば、意識はあるが、今夜が山だという。
そんな中でも、しりとりだけは続いていた。
「ウスター…ソー…ス」
酸素マスクから漏れる、オヤジの声。
お母さんが魚類で繋ぐ。
「すけそうだら」
僕の番だ。
「落葉樹林」
…しまった!ゲームオーバーだ。200年の歴史を終わらせてしまった。
お母さんが叫ぶ。
「まだよ、まだ終わってないわ。あなた、『ん』よ、あるでしょ!」
オヤジは最後の力をふり絞り、僕の名を呼んだ。
「ンガロ」
僕は、自分が、アフリカから養子に選ばれた理由に前々から気づいていた。緊急事態要員だ。
でも、そんなこと、もうどうだっていいのだ。歴史を繋げなければ。
「ロースカツ定食」
我が家のしりとりは、永久に続く。
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