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オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その97


97.   一か八か



京都の住所はややこしい。
でも『西入ル』は西に曲がれということだから
逆に分かりやすいとも言える。
ナビゲーション機能つきだ。
もちろん西がどっちか分かればの話。
まず太陽の位置を見なければならない。
夜ならば北極星の位置を。
方位磁石を持ってくれば良かったのかも知れない。


この辺りだけど下宿らしい建物が多く、
目星をつけるには数が多すぎた。


「ん?『川口』の表札!これか?あの電話に出た川口氏がいるのか?なぜ電話を保留に出来ないのか聞いてみたいぞ。」


おばちゃんに教えてもらった住所に辿り着いたようだ。
この住所は川口さんの家の住所のようだ。
電話に出た人も川口と名乗っていた。


さて。
『たのし荘』はどこだ?
そういえば『たのし荘』は隣だからと電話で言ってたな。


となり、となり。
いや、隣の家は『堀田』と書いてある。
明らかに一戸建ての普通の家だ。


「ん?この間にある、これは・・・道かな?」


川上さんと堀田さんの家の間に
猫専用の通路を発見した。
小型犬も可。
私は肩が木の枝で汚れて破れるかもしれないのを
覚悟してその通路を進んだ。
目に枝が入らぬよう目を閉じて進んだ。


開きっぱなしの入り口があった。
まるで私が東京で住んでいたお寺の中の下宿のように。


匂った。
匂った匂った。
これだな。きっと。


私は恐れることなく慣れた足取りでその
奥の建物の中に入った。


足の踏み場もないほどの靴が玄関にはあった。
こんなにも人が住んでるか。
一体何部屋あるんだ。
もしくは一部屋に何人も住んでいるのだろうか。
そうでないと、この靴も数は異常だ。


私は自分の靴を誰かの靴の上に置いて脱いだ。
靴が玄関マットなのかも知れない。
一番綺麗な靴を選んでその上に自分の靴を脱いだ。


静かだ。
誰か住んでるのだろうか。
まるで誰もいないくらいの静けさ。
靴は30足以上あった。


入ってすぐの木の扉を開けてみた。
鍵はかかってはいなかった。
カチャリ。
なんと!台所ではないか!
いきなりこんなところに台所だけの部屋が!


しかし台所といっても、
本当にキッチン部分しかない。
そう。流しと流し台とガスコンロしかない。
背中側はすぐ壁で狭い。
でもとにかく調理はできる。
顔も洗えるし歯も磨ける。
お湯も作れるし料理もできる。
なるほど。

台所部屋を出た。
次はこの扉を・・・カチャリ。


こ、これは!
ふ、風呂ではないか!


やられた!
風呂付きだ!負けた!
共同でも風呂があるなんて最高だ!
風呂といってもシャワーしかないが
それでも風呂と呼ぼう!


コンクリート剥き出しの
まるで海の家の貸シャワーのようだが
それでも、もしお湯が出れば最高だ。
水しか出ないのだったら引き分けだな。


あとは2階に上がる階段しかない。


上がった。


部屋らしい扉が3枚ある。
部屋番号が書いてない。
常磐木氏の住所を紙には203と書いた。
203と聞こえたから203と書いた。
どれが203だろう。
一か八かどれかにノックしてみよう。
間違えても203がどれか聞けば良い。


コンコンコン!


「はーい!」


おっと!
若い女の子の声だ!
当たりだ!


これはついてる!
もう常磐木氏に用は無くなった。
私は今から出てくる女の子としっぽり盛り上がって
京都に住民票を移す事になりそうだ。


ガチャ。
木の薄くてささくれだった扉が開いた🚪。


いきなり部屋!
玄関的なスペースがなく、
足元がいきなり部屋になっていた!
そして、真っ白でふかふかの布団が敷いてある。


いきなりなのか!
それが京都なのか!
なんて屋敷だ!最高じゃないか!
『たのし荘』の名は本物だった!
私は顔を上げて、
扉を開けた白くて細い手の主の顔を見た。


「あらっ!のぞみちゃん!」

「あっ!真田くん!」


常磐木氏の彼女だった!


〜つづく〜

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

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