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現代アートから学ぶ、地球レベルの視座からのイノベーション

ビジネスにおいてイノベーションは必要不可欠ですが、どのようにしてイノベーションを生み出すことができるでしょうか。今回は、アーティスト、オラファー・エリアソンを例に地球レベルの視座からのイノベーションを考えてみましょう。


人新世とイノベーション

現在は、人新世と呼ばれる新しい時代に入っています。人新世とは、人類が地球に与える影響が地質学的なスケールになったことを示す時代区分です。人口が急増し、新しいプロダクトを作り出すことで、地層に放射性同位元素やマイクロプラスチックなどが堆積しています。このような変化は、1950年代から始まったとされています。

この時期から、各国の一人当たりのGDPは急速に伸びていて、人々の生活が豊かになったことを示しています。

一人あたりの名目GDP推移
経済産業書 通商白書2022

しかし、一方で、各国のCO2排出量も同じように急増しています。イノベーションは地球に多大な負荷をかけてきたとみることもできます。今年の夏は、地球沸騰ともいわれる状況に陥っていますが、NASAが発表した気候変動スパイラルをみると、1980年以降に気温の急速な上昇がみられます。

 IEA, CO2 emissions avoided by country or region, 1971-2022, IEA, Paris

国家間の格差や、同じ国のなかでも貧富の格差といった人間社会での課題も山積しています。イノベーションは生活を豊かにしたと同時に、多くの課題を生み出してしまったのです。

それでは、これからのイノベーションはいかにあるべきでしょうか。

Little Sunの事例

オラファー・エリアソンのLittle Sunにそのヒントがあるように思います。
世界には、まだ6億人もの人が電気の通じていない地域で生活しています。このような地域では、夜灯りをとるために、灯油を燃やしています。オラファーは、このような人たちに、クリーンな灯りを届けたいと、エンジニアのFrederik Ottesenソーラー発電式ライトLittle Sunを開発しました。Little Sunは、夜間に勉強するための灯りを提供することで、教育にも貢献しています。Little Sunは、単なるライトではなく社会的なイノベーションなのです。

Little girl reading with Little Sun Original ©️ Franziska Russo

2012年にプロジェクトを開始してからこれまでに、世界中で150万個のLittle Sunが販売されました。そのうち途上国で販売された数は97万個です。クリーンな灯りを得られるようになった人は465万人、夜間に子供達が勉強できるようになった時間は1億8500万時間にのぼります。灯油を使わないことで削減されたCO2は120万トンになります。

地球レベルの視座

オラファーは、途上国でも販売することに意味があると言います。国による開発援助などでは、援助する側される側という立ち位置ができてしまいます。先進国でも途上国でも、私たちは皆同じであって、違う立ち位置を作りたくなかったのです。

さらに、オラファーは次のように語っています。

太陽光発電の製品をつくる企業は多いが、私たちは世界で数少ない『人々の生活のクオリティ』と『地球温暖化を防ぐ』ことを目標に掲げる会社だと思います。形態は会社ですが、私にとってはアートプロジェクト。だからこそ、自分自身が興味を持って活動しています

オラファー・エリアソンの 「リトルサン」は、
地球温暖化防止と世界の人々をつなぐプロジェクト

これから私たちが目指すべきイノベーションは、オラファーのような視座で考えることが必要です。それは、地球への負荷を減らしつつ社会を前に進めることです。社会を前に進めるというのは、便利とか効率化とかいうことよりも、効率化を進めるなかで見落としてきたことに気づき、それを掬い上げ、多くの人がワクワクした日々を送れるようにすることではないでしょうか。
Little Sunにみるように、この実現には、必ずしも新しいテクノロジーは必要ではありません。地球レベルの視座考え、新しいコンセプトを提示することが重要なのです。

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