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ボツネタ御曝台【エピタフ】混沌こそがアタイラの墓碑銘なんで#038



元歌 FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」

わたしの一番、かわいいところに気付いてる
そんな君が一番すごいすごいよすごすぎる!
そして君が知ってるわたしが一番かわいいの
わたしもそれに気付いた!


アジサイの花の、葉っぱのところにカタツムリ
グロいけれど一匹だけならかわいいね!
君とそんな感じでお話ししながら見わたすと
まわりに吐くくらいいた!




アタイラは調子に乗っていました

アタイラは幸せすぎたのです

幸福というものは、恋愛と似たようなもので、現実を幻で覆い隠してしまいます

アバタもエクボなどといいますが、現実ではアバタがエクボに変わることなど絶対に無いのです

K君のふとした一言で、それは正体を現しました

一番のチャームポイントだと思っていたエクボの正体は、醜いアバタだったのです

そして、可愛いカタツムリだと思っていたものの正体は、背中に千尋を乗せたナメクジだったのです

「え!? そっちのほうが凄くね!?」

先輩、まだモノローグ中なんで、ちょっと黙っててください

「あっそ」

……

アタイラは、イサオに向き合っていたつもりでいましたが、実際にはちゃんと向き合っていなかったのです

暮居カズヤスが行方をくらましている今、イサオに関する全責任はアタイラの肩にかかっているというのに……

……

輪廻転生したイサオが、もし普通の猫になっていないのであれば、獣医に診せることは出来ません

けれども、イサオが普通の猫として生まれ変わっているのだとしたら、体重が増えない理由は病気以外に考えられないのです

……

そんなわけで、アタイと先輩は緊急会議を開くことになりました





あれ? 先輩? どこ行った? おーい先輩!

……

「『お~いお茶』みてーな呼び方すんじゃねえよ!」

あっ、いた、なにしてたんっすか?

「わりい、『独占!女の60分』観てた」

わぁ、懐かしいな~、アタイもあとで観よ

「若かったぞ~〈キャシー中島中島〉」

そんな〈きゃりーぱみゅぱみゅ〉みたいないい方やめてください

ほら、さっさと会議始めますよ

……

で、どうしましょう?

「どうするって、お前、そりゃぁ立ち向かうしかねーだろ」

いや、先輩、問題はその立ち向かい方っていうか、どういう風に立ち向かうか? なんですよ

「そんなの決まってんだろ、まず立ち上がって、それから向かうんだよ!」

……

どこに?

「動物病院に!」

……

やっぱ、そうかー! やっぱ、そう来ますよね!

「来るんじゃねえんだよ! こっちが行くんだよ!」

わかりました、わかりました

はい、会議終了

「会議終わるの早っ!!」





先輩、『独占!女の60分』は後にして、まずは動物病院に電話しましょうよ

「あそっか」

じゃ~ん! ほら『タウンページ』! 電話台の棚に入っていました

「おー、懐かしいな~」

でしょ

「なんか、黄ばんでんな、このタウンページ」

いや、もともと黄色なんで、タウンページは

……

さあ、どういう風に探すかですね、動物病院を

「そりゃ、一番近いところがイイだろ」

……

えーと、一番近場となると、これですね『一番すごい犬うみねこ病院』

「へぇー、一番すごいのか~、アタイラにピッタリだな」

早速、電話かけてみましょうか?

「おう」

……

えーと、番号は、えー、ナオソウ、ワタスノ、ウミネコウミネコ、っと

「なん番だよ、いったい! しかも〈ワタス〉ってなんだよ!」

……

「ミャーオ ミャーオ ミャーオ ミャーオ……」

おお、呼び出し音がウミネコだ、これは間違いないですね

……

あっ、もしもし、『一番すごい犬うみねこ病院』さんですか?

「違います」

すみません、間違えました

「違うじゃねーかよ、ちゃんと番号確認しろよ」

してますよ、ちゃんと

「この〈ワタス〉ってのは〈ワタシ〉の間違えなんじゃねーのか?」

「〈シ〉だったら数字の〈4〉だろ、多分」

そうですね、じゃあ、〈4〉バージョンでかけてみましょう

「おう……しかし、こいつ〈ス〉で何番かけたんだろ?」

あっ、もしもし、『一番すごい犬うみねこ病院』さんですか?

「違います」

うわー、またハズレだよ、ちっくしょー!

すみません、ちなみにそちらは、どちらさんですか?

「はい、こちらは、『一番すごいよ、すごすぎる犬うみねこ病院』です」

ほぼ当たりじゃねーかよ、この野郎!

先輩、こいつ殴ってもイイっすか?

「電話なんだから殴れねーだろ」

もしもし? でも、このタウンページには『一番すごい犬うみねこ病院』って載ってるんですけど

「はい、2年ほど前に『一番すごい犬うみねこ病院』から『一番すごいよ、すごすぎる犬うみねこ病院』に変更したんです」

するなよ! ややこしい!

あっ! このタウンページ5年前のやつですね、どうりで

……

あのー、予約をしたくてお電話したんですけど、一つだけ質問してもイイですか?

「はい、どうぞ」

ターンページには「犬、うみねこ、カタツムリなど」って書いてあるんですけど、猫も診てもらえるんですかね?

「はい、もちろんです」

だったら最初からそう書けよ、この野郎!

先輩、こいつ殴ってもイイっすか?

「だから、電話だから殴れねーっていってんだろ!」

……

「えーと、その猫は、どんな感じの〈りくねこ〉でしょうか?」

り、りくねこ!? どんな感じっていわれても……リクガメじゃねぇんだから……

普通に四本足で尻尾は一本で体全体に毛が生えています

「背中には、なにか乗せてますか?」

いいえ、背中に千尋は乗せてません

先輩、大丈夫ですかね? この動物病院

「まあ、考えてみれば、まともな動物病院よりも、ヤバめな動物病院の方がアタイラにとっては好都合かもしんねぇな」

……

「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

『アタイラず』です

「はい?」

カタカタの〈アタイラ〉に、ひらがなの〈ず〉です

「えーと……」

あっ、間違えた、『アタイラず feat. イサオ』でした

「えーと……〈あたいらずふゅーちゃりんぐいさお〉様ですね」

こんな風に真面目ないい方されると、なんか照れちゃいますね、先輩

「それでは、ご予約の日時にお待ちしておりま~す」

は~い、首を洗って待ってろよ、この野郎♡





そんなわけで、都合良く予約の日時がやって来ました

アタイラは、寝てるイサオをそっとピクニックバスケットに入れると動物病院へと向かいました

……

アタイラは今、『一番すごいよ、すごすぎる犬うみねこ病院』の前に立っています

イサオはピクニックバスケットの中で、まだ、ぐっすりと眠っています

こいつは本当に手のかからない奴です

……

ごく普通の動物病院ですね

「だな、全然凄そうに見えねーな」

あれじゃないですか? 中に入ったら凄いんじゃないですか?

「私、脱いだら凄いんです的な?」

……

どうします?

「なにが?」

もし、イサオが普通の猫じゃないことがわかってしまったら……どうします?

「そりゃ、逃げるしかねーだろ」

ですよね、『E.T.』みたくNASAや警察がイサオを手に入れようと追いかけまわすでしょうから

「住所も教えないほうがイイな」

はい、あの家は一応、暮居カズヤスのアジトってことになってますからね

よし! 覚悟を決めていきましょう!





中に入ってみると『一番すごいよ、すごすぎる犬うみねこ病院』は、いたって普通の動物病院でした

……

待合室のソファには、小学生の男の子が一人座っていました

男の子は、カタツムリの入った虫用のプラスチック容器を抱きかかえています

先輩がその男の子に向かって、つかつかと歩いて行きました

「おい! 知ってっか? フランス人はカタツムリをガーリックバターで炒めて食べるらしいぞ!」

先輩、やめてください! 恥ずかしい、もう、大人げないですよ

「いや、こういうことは早めに知っといたほうがイイと思って」

だとしても、初対面の子供に、出会い頭にいうことじゃないですよ

ほら、小学生、ビックリしすぎて、目が平井堅みたいになってますよ

……

受付には若い女が一人立っていて、こちらの様子を満面の笑みで眺めています

女は派手なメイド服を着ています

嫌な予感がします

……

すいません、予約している『アタイラず』ですが

「おかえりなさいませ! 御飼い主様!」

お、御飼い主様って……

アタイラ、ここに住んだ覚えないんで、たぶん人違いだと思います

「もお、そんな、いけずなことおっしゃらないでくださ~い、うぇーん」

先輩、帰りますか? ここ病院じゃないみたいなんで

「御飼い主様、ここは病院でございますよ」

そうなのか?

「はい、コンチクとして、やらせていただいておりま~す♡」

コンチク?

「はい、コンセプト・畜生病院で~す♡」

ち、畜生って……しかも、そんなカワイイ声で……

そんじゃ、予約のとおり健康診断をお願いします

「はい、確認いたしますので少々お待ち下さ~い」

先輩、不安しかないんすけど

「イサオのためだ、我慢しろ」

……

「申し訳ございません、御飼い主様、『アタイラず』様でのご予約は承っていないようなのですが……」

そんなはずねーよ! 確かに電話で予約したよ!

「はあ、似たようなお名前で『アタイラずfaet.イサオ』様という予約は入っているのですが……」

それだよ、バカ野郎! こんなバカみてーな名前、この宇宙に二つとねーだろ!

先輩、こいつ、殴ってもイイっすか?

「ダメ、殴れるけど、殴っちゃダメ」

「そうですよ、御飼い主様、おいたはいけませんよ♡」

は? バックブローで沈めるぞ! コノヤロー!

「大丈夫か? 発散できたか?」

ハァ、ハァ、ハァ……はい……

……

「それでは、こちらの紙の太枠のところに、御飼い主様の情報をお書きくださ~い」

「筆記具はボールペンとケチャップのどちらをお使いになりますか?」

ボールペンで

「はい、どうぞ♡」

「大丈夫か? お前、もうボケに反応できないくらい疲れてるんじゃねーのか?」

だ、大丈夫です

……

アタイが記入してるあいだ、先輩は男の子の隣に座り、色々とちょっかいを出していましたが、男の子もまんざらでもない様子でした

……

「申し訳ございません、御飼い主様、ご住所のほうが空欄になっているようなのですが……」

ああ、それね……ええーと、その、なんていうか、アタイラは、ほらボヘミアンだから、定住してないっていうか……

知ってる? 葛城ユキの『ボヘミアン』、歌ってみようか?

「え~、歌ってくれるんですか~、めっちゃ萌えキュンです~♡」

歌わねーわ、バカ野郎!

「それでは現在の宿泊先でも結構ですので、記入していただけますか?」

あー、アタイラは、ほら、翼の折れてない天使なんで、宿泊なんてする暇もなく世界中を飛び回ってるから

知ってる? 中村あゆみの『翼の折れていないエンジェル』、歌ってみようか?

「え~、歌ってもらえるんですか~、めっちゃ嬉しいです~♡」

うう……ボ、ボケが通用しない……

「大丈夫か、お前? なんか、ラオウ対トキの闘いみてーになってんぞ!」

……

「それでしたら、身分証明書的なものがございましたら嬉しいんですけれども」

あ~、あるある、なめ猫の免許証、これで文句ねえだろ! 有効期限も死ぬまで有効だし!

「わあ~、カワイイ~♡」

「なめ猫の免許証はカワイイんですけど、これだと、無理矢理固定した状態でフラッシュをバンバンたいて撮影するので、子猫ちゃんが胃潰瘍になっちゃいます~、ぐっすん」

そっちかよ! さすがは畜生病院の受付だな!

……

もういいよ、連絡はこっちからするってことで、勘弁してくれよ!

「わかりました、先生と相談してみますので少々お待ちくださ~い」

わかった

いや~、しかし、あれっすね~

「大丈夫だそうです」

早っ! 相談早っ!

ホントにいんのか? 先生

診療室に入ると、また、お前が出てくんじゃねーだろーなー!

……

「それでは、診察室にお入りくださ~い」

「おい、ちょっと待てよ! この坊主のカタツムリの方が先なんじゃねーのか!?」

そうですよね、アタイラが来たとき、もういましたよね、このガキんちょ

すると男の子は、泣きそうな顔で

「も、もう診てもらってるから、僕のカタツムリは診察中だから……」といいました

「なんだよ、そうだったのかよ、じゃあ、このカタツムリはなんなんだよ」

「このカタツムリは健康な方、今診てもらってるのが病気のカタツムリ……」

「へー、サイゼリヤのエスカルゴみてーな色してたから、てっきり病気で死にそうなんだと思ってたわ」

「このカタツムリは、こういう色のカタツムリだから……」

「へえ、こういう色の種類なのか~……気色悪っ!」

先輩、優しいのか、優しくないのかハッキリしてくださいよ

ほら、このガキんちょ、困惑して高音を出すときの平井堅みたく天井を見上げちゃってるじゃないですか

「イイんだよ、こいつはな、カワイイお姉さんに会う口実を作るために、病気のカタツムリを捕まえては病院通いをしてんだよ、な? 図星だろ?」

男の子は、顔を真っ赤にしてうつむくと、ライブでトランペットを吹く時のマイルス・デイヴィスみたいな表情になっていきました

「全く、ませたガキだぜ!」

先輩、あんまり子供を追い込んだらだめですよ、顔は真っ赤でも心はカインド・オブ・ブルーなんですから、きっと

……

「それでは診察室にお入りくださ~い♡」





中は普通の診察室でした

おい、やっぱりお前がいるじゃねーかよ!

「違います違います、今から先生がいらっしゃいますんで……」

「先生が登場しましたら、大きな拍手でお迎えくださいませ」

何でだよ!

「それでは、大天使メイド・えるみか様のご降臨で~す!」

「大天使?」

先輩、なんか、どんどんヤバくなっていきますね

「はい、パチパチパチパチ~、ほら、もっと心を込めて拍手してくださ~い」

ええ~

「ほら、イサオのためだ、我慢しろ」

……

奥の方から背中に羽をつけた女が現れました

まるで『玉姫様』の頃の戸川純みたいです

「よし、盛り上げるぞ」

「よっ! ナウいナウい! 翔んでる女!」

そう! そう! まぶい女! かっちょいー!

えるみか様は背中の羽を医療機器にぶつけながら、こちらに向かって歩いてきます

ああ、ああ、危ない、危ない、倒れる、倒れる!

なんで、アタイラが気を遣わなきゃいけねぇんだよ~!

アタイラは、そう叫びながら倒れそうになった医療機器を支えていました

……

「おかえりなさいませ! 御飼い主様! 大天使メイド〈えるみか〉で~す、萌え萌えキュ~ン!」

なんだよ、ラスボスかと思ったら受付の女と同じキャラじゃねーかよ! さては交代制だな

……

寝ているイサオをピクニックバスケットから診察台に移すと、えるみか様は

「まあ、カワイイ子猫ちゃん♡ お名前はなんていうんですか?」と訊きました

名前? イサオ……

「わあ~、とっても素敵な名前~、今までで一番、萌えキュンな名前です~♡」

噓つけ! 猫の名前ランキングでずっと最下位だわ! ていうかランクインすらしてねーわ!

「でも、それが逆に萌えキュンでカワイイです~♡」

〈逆に〉っていっちゃてるし! ハッキリ〈逆〉っていってるし!

……

「ということで、早速診察を始めちゃいまーす♡」

えるみか様はそういうと、診察台の上で寝ているイサオに手をかざし始めました

「は~い、健康にな~れ、健康にな~れ、萌え萌えキュ~ン♡」

てめえ、なめてんのかコラァ!

「違うんです~、これは不健康が憑依していないかを確認してるんです~」

不健康が憑依? そんなことあるかー!

「それが時々あるんですよ~」

じゃあ、不健康が取り憑いてたらどうなるんだよ!?

「はい、不健康が取り憑いている時におまじないをかけると、『エクソシスト』の少女みたいに「○uck me! ○uck me!」と叫びながら、十字架を股間に突き刺し始めます~」

そんなことするわけねーだろ! 子猫が!

「御飼い主様は、実際に見たことが無いからそんなことをおっしゃるんですよ~」

嘘をつくんじゃねえよ!

「嘘じゃありません! この〈えるみかっち〉が今までに何百匹の子猫を除霊してきたと思ってるんですか!?」

除霊っていっちゃってるよ、勢いに任せて除霊っていっちゃってるよ、えるみかっち

……

そうこうしているうちに、主役のイサオが目を覚ましました

「あら~、イサオっち、いっぱい寝まちたね~♡」

「それでは、ここからは真面目に診察いたしますね♡」

はじめから真面目にやれよ! 確信犯女!

……

えるみか様は、体重測定、触診、超音波検査、レントゲン、採血などを慣れた手つきで行いました

そして、「今のところ異常はありませんが、2週間後に結果を聞きに来てくださいね♡」といいました

そして、受付で診療代を払おうとすると

「大丈夫ですよ、初月の会費は無料ですから♡」と、よくある有料記事みたいな対応をしてくれました

ってことは、2週間後も同じ月だから全部無料ってことじゃねーか! ヤッター!

「まんまと乗せられてんじゃねえよ! お前」

……

胸をなで下ろし、アタイラは帰宅しました

それでも不安が拭えないアタイラは、キッチン秤でイサオの体重を毎日計りました

「体重……全然増えませんね……」

日が経つにつれ、アタイラはだんだん無口になっていきました





2週間後、アタイラはまた『一番すごいよ、すごすぎる犬うみねこ病院』の前に立ちました

イサオも一緒です

……

今のアタイラって、ポルターガイストに立ち向かう主人公みたいな感じになってますよね

「行かなきゃいけねぇんだけど、なんか行きたくねえよな~」

ポルターガイストは、見えないからまだイイんですけど、アイツらって、目がショボショボするくらい衣装が派手ですからね

「ウザさに関しては、まさに一番すごいからな」





中に入ると、待合室のソファには、また、あの小学生男子がカタツムリのケースを抱えて座っていました

先輩は、また男の子に向かってズンズン歩いて行きました

「おい、お前、スゲーな! たいした根性だ、もしかして推しがいんのか?」

男の子は真っ赤な顔をして、コクリとうなずきました

……

「おかえりなさいませ、御飼い主様♡」

「お久しぶりです~♡ みなさん、お元気でしたか~?」

ああ、まあ、元気っちゃ元気だよ

「みなさんがいらっしゃった2週間前の日に生まれたモンシロチョウやセミは、ぜ~んぶ死んでしまいました♡」

いわなくてもイイよ、そんなこと! 寿命なんだからしょうがねぇだろ!

出会い頭に気分悪いこというんじゃねーよ!

……

……

診察室で健康診断の結果を聞くことになったのですが、えるみか様は複雑な表情をしていました

「健康診断の結果なんですが……」

う、うん……

「それでは問題です、健康診断の結果は次のうちどれでしょう?」

「A:いたって健康、B:問題有りだが命に別状はない、C:とにかく何もいいたくない、D:イサオ君は子猫ではなく、実は毛深いオッサンだった、さあ、正解はどれでしょう?」

えるみか様は、アタイの顔をジッと見つめました

「ジー」

え? なんでアタイだけ?

ジー

「ジー」

……エ、Aの、い、いたって健康……

「ジー」

ジー

「ファイナルアンサー!?」

ジー

「ジー」

ファ、ファイナルアンサー……

「ジー」

ジー

「正解!!!」

ヤッター!!!!

って、なんだよ! この時間

……

「おめでとうございます!良かったですね♡」

良かった、良かった

……

で、実は一つだけ頼みがあるんだけど……

「はい、どうぞ、いってみてください」

体重を測ってもらいたいんだよ

「え~、ダメです~、私たちって体重非公開なんです~、ごめんなさ~い」

おめーじゃねーよ、イサオだよ

「あっ、そうですよね、それだったらお安い御用です~」

キッチン秤で毎日測ってたんだけど、自信がなくて……

……

えるみか様は、イサオを体重計に乗せると、首を傾げました

「あれ~、おかしいな~、体重計壊れちゃったのかな~」

そして、ほかのメイドとひそひそ話を始めました

「おかしいな~、やっぱり壊れちゃったのかな~、誰かが乗せてはいけない重いものを乗せちゃったのかな~、マクガイヤー・ブラザーズとか……」

……

まずい、やっぱり体重は増えていないんだ……

アタイは体重計の上のイサオを素早くピクニックバスケットに移しながら

わりぃ、わりぃ、間違えた、間違えた

イサオと間違えて、双子の弟のビトオを連れてきちまった

「ビトオ?」

そうそう、ね、先輩、そうですよね

「あ? ああ、ああ、そ、そうだな……」

ビトオ&イサオの2匹組コンビとして、やらせてもろうとります~

ということなんで、ほな、さいなら~

……

アタイラは、逃げるように動物病院を後にしました

……





イサオの体重は増えていなかった

やはりイサオの成長は止まっていたのです

やっと、普通の猫として転生することが出来たと思ったのに……

こうなったら、もう選択肢は一つしかありません

そう、アイツと対峙するしかないのです

無茶なことはわかっています

でも、それが困難であればあるほど、体の奥底から力がみなぎって来るのが、アタイラ、ヤンキーなのです

……

アタイラは、自然に早歩きになっていきました

言葉は一言も交わしませんでしたが、お互いの覚悟は、肌に染み入るようにひしひしと感じあっていました

やるっきゃない! 前に山があるのなら、動かすっきゃない!

……

火照った頬を風がなでていきます

その心地良さは、死を覚悟した時に訪れるやすらぎの香りに似ていました

……

……

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