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おとなの読みもの

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おとなにおすすめの本。 いつか、おとなになる子供におすすめの本。
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骨董夜話

骨董夜話

📚【骨董夜話】
1970〜1978 月刊「太陽」に連載
1975年に連載分をまとめた単行本が出版。

「螺鈿の皿」
長径が僅かに一二・五センチ、短径九・一センチ。
「琺瑯彩」
直径十四・五センチ

製作者の意図が初めから「美」を造り出すことにあたって、その全能を傾けて出来上がったものが工芸品であると。これに対し、民芸品は、日用雑貨を作るうちに、偶然に修練によって美的作品となったものである。(細川

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知々夫紀行

知々夫紀行

📘『知々夫紀行』
幸田露伴

1899(明治32)年2月

我邦には獅子虎の如きものなければ、獣には先ず狼熊を最も猛しとす。されば狼を恐れて大神とするも然るべきことにて、熊野は神野の義、神稲をくましねと訓むたぐいを思うに、熊をくまと訓むはあるいは神の義なるや知るべからず。(或曰、くまは韓語、或曰、くまは暈にて月の輪のくま也。)ただ狼という文字は悪きかたにのみ用いらるるならいにて、豺狼、虎狼、狼声

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居酒屋兆治

居酒屋兆治

居酒屋兆治
山口瞳 1979

東京郊外の小さな町にある「居酒屋兆治」。店主の本名は藤野伝吉だが、客は皆彼を兆治と呼ぶ。彼は若い頃はプロの野球選手になることを期待される程の腕を持っていた。しかし、倒我によりその夢を諦め、サラリーマンとして生きてきた。上司とのトラブルに悩んだ彼は、職を辞し、幼い頃から住む町にカウンターだけの小さな店「兆治」を始める。そこに集まる客は、昔からこの町に住む顔なじみばかり

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オリエント急行殺人事件

オリエント急行殺人事件

📓『オリエント急行殺人事件』
アガサクリスティ 1934

「警察だったら使えるような操作手段が我々にはひとつもないということです。推理に頼るしかありません。」

シリアでの仕事を終え、イスタンブールに滞在していたポワロに、至急ロンドンに戻れという電報が届いた。ところが不思議なことに、オリエント急行の一等寝台は、この冬の季節には異例の満員である。ポワロは、知り合いの国際寝台会社の重役に頼み込み、

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『楽園のカンヴァス』

『楽園のカンヴァス』

📒『楽園のカンヴァス』
(La toile du paradis)

原田マハ 2012

・・・
Yadwigha dans un beau rêve
S'étant endormie doucement
Entendait les sons d'une musette
甘き夢の中 ヤドヴィガは
やすらかに眠りに落ちてゆく
聴こえてくるのは思慮深き蛇使いの笛の音
・・・

「2000年 倉敷」

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辺境の食卓 野尻湖から

辺境の食卓 野尻湖から

📕『辺境の食卓 野尻湖から』
太田愛人 1976

「我らの日用の糧を今日もあたえ給え。」

執筆者の太田愛人は岩手県盛岡市出身の牧師。同郷の詩人・童話作家の宮沢賢治と同じ盛岡農林専門学校を卒業。柏原信濃村伝道所に赴任していた時期、月刊通信誌「辺境通信」の発行人をつとめ、信濃村(現信濃町)での生活を誌に綴った。「辺境の食卓 野尻湖にて」は、それらを一冊の本にまとめたもの。「辺境への道案内」で始ま

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生々流転

生々流転

📘『生々流転』
岡本かの子 1940

・・・・・
遁れて都を出ました。鉄道線路のガードの下を潜り橋を渡りました。わたくしは尚それまで・・・袂の端を掴む二本の重い男の腕を感じておりましたが・・・だんだん軽くなりました。代りに自分で自分の体重を支えなくてはならない妙な気怠るさを感じ出しました。これが物事に醒めるとか冷静になったとかいうことでしょうか。
・・・・・

🖌️
蝶子は丘陵地にある学園に

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カンディード

カンディード

『カンディード、あるいは楽天主義説』(Candide, ou l'Optimisme)
ヴォルテール 1759
・・・
1755年11月1日、ポルトガルの首都リスボンを大地震と津波が襲いました。
西ヨーロッパの広い範囲で強い揺れが起こり、ポルトガルのリスボンを中心に大きな被害を出しました。津波による死者1万人を含む、5万5,000人から6万2,000人が死亡、推定されるマグニチュードはMw8.5〜

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銀の匙

銀の匙

『銀の匙』
中勘助

前編が1910年(明治43年)に執筆され[1]、1913年(大正2年)には「つむじまがり」と題された後編が執筆された。夏目漱石に送って閲読を乞うたところ絶賛を得、その推挙により同年4月8日から6月4日まで前編全57回が、1915年(大正4年)4月17日から6月2日まで後編全47回が東京朝日新聞で連載された。

・・・・・
私の書斎のいろいろながらくた物などいれた本箱の抽匣に昔

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信州川中島合戦

信州川中島合戦

⚔️『信州川中島合戦(文楽)』

近松門左衛門 作
享保六年(1721)大坂竹本座初演。五段つづきの時代物。上杉謙信と武田信玄の川中島の合戦を題材にしている。

三段目の「輝虎配膳」より

越後の長尾輝虎(上杉謙信)は、宿敵の武田信玄に負け続けている。輝虎は信玄が強いのは向こうにすぐれた軍師の山本勘助がいるからで、何とか勘助を自分の軍師に迎えたいと考えている。その山本勘助は輝虎の家臣である直江山城

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武器よさらば

武器よさらば

📘【武器よさらば】
ヘミングウェイ 1929

「・・・傘は小さいけれど、持ってきてよかったわ。」 キャサリン

僕はイタリア戦線の救護車部隊に配属され、中尉として現場を取り仕切っていた。新たな戦闘が始まろうとしている頃、休暇から前線へと戻ってくると、僕が不在の間にイギリス人看護婦の一団がやってきて病院を設営していた。キャサリンいう看護婦に出会った。彼女はこの戦争で婚約者を亡くしたということだっ

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夫婦善哉

夫婦善哉

夫婦善哉
織田作之助 1940

柳吉
「こ、こ、ここの善哉は何で、二、二、二杯ずつ持って来よるか知ってるか、知らんやろ、こら昔何とか太夫ちゅう浄瑠璃のお師匠はんがひらいた店でな、一杯山盛にするより、ちょっとずつ二杯にする方が沢山入っているように見えるやろ、そこをうまいきと考えよったのや。」
蝶子
「一人より夫婦の方が良えいうことでっしゃろ」

年中借金取りが出入りする一銭天麩羅屋。その娘の蝶子は

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紅葉狩

紅葉狩

🍁『紅葉狩』
「能」の演目
五番目物・二場物・五流
作者・観世小次郎信光(1435〜1516)

信州戸隠山で平維茂をもてなした美女は、恐ろしい鬼であった。

戸隠の山里に自らを「色あせた庭の白菊」に喩えて孤独を託つ貴女が住んでいた。貴女は秋の夕暮れ方に供の女たちを連れて戸隠山の奥へ紅葉狩に出かけていく。谷川の辺りに幕を張って宴席をつくり、四方の梢を眺めやりながら酒宴を始めた。そこへ鹿狩りをして

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彼のオートバイ、彼女の島

彼のオートバイ、彼女の島

『彼のオートバイ、彼女の島』
片岡義男 1977

・・・
高原の涼しい風が、いろんな方向から吹きぬけた。
遠く浅間山のうしろに、入道雲がそびえはじめていた。空は、まっ青だ。
浅間のずっと左手に、菅平が一望できた。
ぼくは、そのとき、千曲川をはさんで反対側、別所温泉の高原にいた。
・・・

僕(橋本功)は一人旅をしていた。信州の高原の道路脇で休憩していると、彼女(白石美代子)と出会う。彼女が僕のオ

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