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ショートショート① ジャンパー
僕の隣の席の子は瞬間移動が可能だ。
静かな教室。先生の板書の音と、自分たちの作業音だけがはっきりと聞こえる。
時計の針が十二時を指した。
突然破裂音が炸裂し、僕の隣に人間が出現した。机の上に溜まったプリント類が一斉に飛び散り、近所に座っている僕たちも衝撃波で椅子から転げ落ちた。もちろん、あらかじめクッションが置いてある。僕たちはもはや真顔で倒れる境地に達していた。
「すみません、遅刻しまし
短編小説「待機中!」
前田は山のように書類を抱えていた。前が見えていない。
走り出す前田。
誰もいない真っ白な廊下を駆けていく。廊下の角に近づいたが、彼は速度を落とさない。そして、事前の準備通りに足をしっかりと滑らせ、大転倒。角の向こう側に書類の山を綺麗にぶちまけた。
うつ伏せでじっとする前田。紙がひらひらと床に落ちる。
うつ伏せでじっとする前田。
二分ほど我慢していたが、こらえきれずに立ち上がって書類を回
短編小説『人生堆積、堆積人生』
板上、須藤、竹串の三人は家でダラダラとしていた。が、板上が突如発狂した。
「火を消すためには水じゃなくて砂を被せた方がいいんだよ!」
「え?」
と須藤。
「死んで悲しかったペットだって、穴に入れて土を被せているうちに段々と悲しみは和らいださ!」
「は?」
と竹串。
「さっさと俺に土を被せてくれ! ええい、こんなものいるかぁ!」
板上はスマホを床に叩きつけ、そのまま走って部屋から出ていってし
短編小説『団結列車』
私は電車の中で漫画を読んでいた。いよいよ最終巻。連載開始から約二十年。ついにこの瞬間が……!
「確か、主人公首つって死ぬんだよ」
そのとき、頭上から降ってきた会話。
「きえええ!」
気づいたら私は飛び掛かっていた。
たちまち車内は動揺にまみれ、人間たちが私を掴んで暴力を抑え込んだ。
「許さん、ネタバレぇ!」
吠え狂う私だったが、スーツの男性の一言で動きが止まった。
「それ、嘘だよ」
「え
短編小説『怒りの旅』
母に怒られた。
僕は家を飛び出した。
はたしてそれが、怒ってなのか悲しんでなのかは不明だが、少なくとも尻尾か背中に火がついたことで引き起こされたことであるのは確かだった。
家を飛び出た瞬間に、隣の家が大噴火した。爆炎と共に屋根が吹き飛び、マグマが無様に飛び散った。高々と噴き上がる黒煙は僕の頭上を卑しく覆ったが、僕はまだ足りないと思った。流れ出たマグマが足を焦がして白骨化させても、僕はまだ足
短編小説『三割の世界を破壊しよう』
晩ご飯。娘の美樹はマグロの刺身を美味しそうに頬張りながら言った。
「ヒトは目とか口があるのに、魚にはないの面白いね。こんな体で海を泳いでるんでしょ」
爆弾発言だ。
夫は喉にマグロを詰まらせ、私は食器を床に盛大にぶちまけた。
「美樹……!」
私と夫の心はシンクロした。
「え? え? これ、魚?」
大きな水槽の前で、美樹は歓喜の舞を披露していた。
「いつも食べてる……ア。アジは?」
「これ」
短編小説『頂点はあるのか』
俺たちは急斜面を駆け登っていた、後ろは見ない。ひたすら、ひたすら、目指すのは頂点だけ。震える足を叩きつけ、逃げ出そうとする心臓を仲間たちと一緒に捕まえる。
だが、どれだけ走っても頂点にはたどり着かない。それどころか、見ることすらできないのだ。深い霧の間から見えるのは肌色の地面だけ。自分たちが立っている地面と寸分の違いもない。
意味、あんのかな。
「おい!」
仲間たちの制止を無視して、俺
短編小説『極寒の茶番』
二年A組、C組、F組合同の体育授業。この冬、男子でサッカーを選択したのは全部で三十人だった。
先生が一同を集める。寒風が吹く度に悲鳴。
「お前ら、うるせぇぞ」
「一人だけ厚着してるやつが偉そうに!」
「いいから早く授業始めてくれ!」
「じゃ、ゆっくり点呼しまーす」
「殺すぞ!」
「はいはい、じゃ、A組。全員いる?」
「高橋と嵯峨月がインフルです」
「ほい。C組」
「水崎と富田、向井とドルバーが