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短編小説「待機中!」

 前田は山のように書類を抱えていた。前が見えていない。
 走り出す前田。
 誰もいない真っ白な廊下を駆けていく。廊下の角に近づいたが、彼は速度を落とさない。そして、事前の準備通りに足をしっかりと滑らせ、大転倒。角の向こう側に書類の山を綺麗にぶちまけた。
 うつ伏せでじっとする前田。紙がひらひらと床に落ちる。
 うつ伏せでじっとする前田。
 二分ほど我慢していたが、こらえきれずに立ち上がって書類を回収し出した。ありえないほどの棒読みで呟く。
「いやぁ。僕はなんてついていないんだろう。新学期の初めだというのに遅刻してしまうだなんて。まいったなぁ、これじゃ授業に遅れてしまうよ」
 閑散とした廊下にしたったらずな声が虚しく響き消える。
「ダメか。もう一度だ」
 前田は山のように書類を抱えなおし、スタート位置に戻った。
 再び走り出す。 
 前田は漫画のような奇跡の出会いを常に待っている男だった。

 女の子ではなく、屈強な陸上部キャプテンが前田の足の速さを見込んで待ち伏せをし始めるのは、もう少し先のお話。

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