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短編小説『団結列車』

 私は電車の中で漫画を読んでいた。いよいよ最終巻。連載開始から約二十年。ついにこの瞬間が……!
「確か、主人公首つって死ぬんだよ」
 そのとき、頭上から降ってきた会話。
「きえええ!」
 気づいたら私は飛び掛かっていた。
 たちまち車内は動揺にまみれ、人間たちが私を掴んで暴力を抑え込んだ。
「許さん、ネタバレぇ!」
 吠え狂う私だったが、スーツの男性の一言で動きが止まった。
「それ、嘘だよ」
「え?」
「そうそう、主人公死なないもん」
 今度は若い女性が。
「いや、死ぬよ」
「ハッピーエンドさ!」
「いや、ハッピーではなかろう」
 次々と乗客たちが結末について喋り、私の頭はこんがらがった。
「ちょっと、何が本当なのよ!」
「読んでみればわかるよ」
 私は促されるまま席に座って続きを読んだ。

「首つって死ぬじゃぇか!」
 私は叫んで立ち上がった。が、車内は空っぽ。
 はっとして車窓を覗き込むと、乗客全員が全速力で駅からの脱出を図っている姿が見えた。

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