見出し画像

短編小説『頂点はあるのか』

 俺たちは急斜面を駆け登っていた、後ろは見ない。ひたすら、ひたすら、目指すのは頂点だけ。震える足を叩きつけ、逃げ出そうとする心臓を仲間たちと一緒に捕まえる。
 だが、どれだけ走っても頂点にはたどり着かない。それどころか、見ることすらできないのだ。深い霧の間から見えるのは肌色の地面だけ。自分たちが立っている地面と寸分の違いもない。

 意味、あんのかな。

「おい!」
 仲間たちの制止を無視して、俺は回れ右をして急斜面を下っていた。衝動的な行動だ。だが、止められない。自然に足が回転する。登るよりも楽だ。楽すぎる!

 眼下に人影が見えた。俺たちの他にも頂点を目指している奴らがいたんだ。なら教えてやらないと。ろくなことがないと。
 俺は大声を出して手を振りながら人影に近づいた。
 互いの顔を見て凍りつく。
 俺たちは、再会した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?