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白い楓

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二人の殺し屋がトラブルに巻き込まれて奔走する話です。そのうち有料にする予定なので、無料のうちにどうぞ。。。
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#仕事

明の2「ロマンスⅠ」(08)

 やることは、香山から指示されていた。Kをクラブで発見し、彼女をかどわかしてラブホテルへ移動、入室後に殺害する。男は、Kの浮気癖に腹を立てたらしい。ラブホテルで殺害する、というのはKの惜しみなき性欲の実現を逆手に取った策である。こんなことだからこの女は男の怨恨を生み出すのだ、と私は心の中で激しく軽蔑し、嘲笑を上からかぶせた。そして男は、Kの殺し方に文字通り注文をつけてきた。絞殺である。確かに絞殺は

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明の4「解離」(12)

 香山に会うべく乗った電車内で気づいたのだが、私を尾行する男がいた。あのジムでよく見るスキンヘッドの巨漢であった。電車の人混みの中で、彼の首の太さが際立って分かった。警察か、同業者か。どちらの場合であってもひどく面倒に思われる。警察であれば、よほど手荒な真似はしないだろうが、捕まれば銃刀法違反で逮捕される。同業者であれば、そこには金が発生する事案があるわけで、ちょっとやそっとのことでは私の追跡をや

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香山の8 「侠盗」(13)

「こんなシャンパンが五万とは、本当にあほらしい世の中だよな、君」
 嶋(しま)と名乗る男が、メニューを見ながら私に問いかけた。私達は、中洲川端のビルの一室を借りたキャバクラにいた。キャストがそのシャンパンを取るために席を外している間のことだ。彼は、私のところの風俗店の常連であった。
「他のところはどうなっているのか知らないが。実にあほらしい。ところで、俺は建設関係の仕事をしている、と教えたことはあ

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お宮の1 「らせん」(19)

 私は、依頼のメールを読んでしたり顔をした。
『私の交際していた女Kが殺された。殺したやつを突き止めた。警察に突き出すだけでは気が済まない。なぶり殺しにしてほしい』
 添付されていたjpegファイルを開くと、そこには明という同業者の顔があった。彼はこの業界で名の知れた男で、香山というブローカーの下で働いていた。どちらも、仕事の上手なことで知られているのに、彼らの素性を調べた依頼者に舌を巻いた。しか

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香山の14「仮想化」(32)

 明がお宮を連れて出ていった。ドアを閉める音がして、私は一人ぼっちになった。何となく、私はドアの淵を撫で、ざらつく素材が指に与える感覚を楽しみ、やがて私は退屈した。
 頭の中に、キャバクラの店内が映し出された。隣に座る嶋が笑っていた。過去を想起しているのだと気づき、彼の笑いの前の発言を私は思い出した。
「俺も含めて、この世の中は実に吐き気のするほど穢れた人間どもであふれていると思っている。みんな、

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