これが動詞だ! 動詞の覚え方と先生との出会い
20代のとき、主に中学生を対象とした学習塾でアルバイトを少しだけしていた。
生徒に理数科目を教えたくて、面接でも塾長にそうハッキリと言ったのだが
「すでに雇っているアルバイトが理数科目を担当している」
ということで、そのアルバイトが理数科目からハズれてもらうのは、その人のプライドもあるだろうからと、塾長としてもそんなことはしたくなかったらしい。その個人塾では、教え方の技術や能力を塾講師同士で競わせることはしていなかった。
そこで、担当するように言われたのが英語だった。
英語なんて、音符がほとんど読めない音楽や二重跳びができない体育の次に苦手だった。
わたしから英語を教わるなんて、生徒が可哀想すぎる。それを正直に塾長に伝えたが
「大丈夫! いちばんレベルが下のクラスにしといたから!」
と言われてしまった。いやいや、それって逆に教えるのが難しくないのか?! 成績がいちばん下ってことは、勉強が嫌いな生徒が多いんじゃないのか?! わたしが教えることで、より勉強が嫌いになるんじゃないのか?!
と不安だらけだったが、アルバイト代欲しさについつい引き受けてしまった。
塾の授業そのものは、塾長がホワイトボードを使って、全体的に生徒に教えた後で、個別にテキストの問題を解いてもらい、わからない生徒に個別に教えていくやり方だった。
≪I like to + 動詞の原形≫を使って、英文を書きましょう。
ああ、それくらいなら、わたしでもなんとかわかる!
ところが、そのクラスの生徒たちのほとんどが英文を一つも書けていなかった。しかも、なにを言っても、どう教えても反応がイマイチだった。
「動詞の原形を英語で書きましょう」
「とりあえず動詞を英語で書いてみましょうか」
「では、まず動詞を日本語で言ってみましょうか」
はて、どうしたものか?! そのとき、まさか?! まさかね?! とあることに気づいたのである。
「『歩く』の語尾をのばしてみますね。『歩くーーーーーう』って、最後『う』になるでしょ? 語尾をのばして『う』になるのを動詞っていうの。歩くはwalkだからI like to walk~わたしは歩くことが好きだ~が正解です。語尾をのばして『う』で終わる単語は?」
「う~ん、勉強する?」
「そう、正解! 『勉強するーーーーーう』で『う』で終わるから、動詞! 勉強するは英語で?」
「study」
「そう、正解! 英文にすると?」
「I like to study」
「わたしは勉強することが好きだ。大正解! 他に動詞は?」
「遊ぶ!」
「走る!」
「言う!」
そこから生徒たちは、動詞の原形を英単語でスルスル言うことができるようになった。
生徒たちは英単語を知らないわけではなかったのです。そもそも、日本語で動詞とはなにかがわからなかったのです。
ところで、「語尾をのばして『う』で終わる単語は動詞」とわたしが習ったのは、小学1年のときです。わたしが通っていた小学校は田舎にある公立です。先生方も一般的な教育学部出身の方が多かったはずで、生徒に特別な勉強を教えていたというよりは、基礎的な勉強しか教えていなかったと記憶しています。
では、その学習塾のそのクラスの生徒たちが、小学校低学年のころ、先生に教わったことを忘れていただけなのでしょうか。
数日後、わたしは塾長に呼び出されました。
「シイラさんには国語も担当してもらうから」
「こ、国語?! 国語なんて他人に教えられませんよ!」
「大丈夫! シイラさんは品詞をよくわかっているから!」
「はぁ……」
結局、国語を担当する前に、体力的な問題が生じて、その学習塾を辞めた。
体力的な問題で辞めはしたが、ちょうどそれで良かったんだと思う。
わたしが小学1年のとき、きちんと専門的な勉強を大学でしてきて、そこで教員免許を取り、教員採用試験に合格し、現場や勉強会で学びつづけた先生に習ったお陰で、品詞が自然と覚えられたように、学習塾で出会った生徒たちにも、専門の勉強をしてきた先生から学んで欲しいから。
先生との出会いって、与えられる影響が大きいし、その後の人生までも変えてしまうのだから。
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