【ショートショート】自転車でポップコーンを作るおじさん
いつの頃からか、近くの公園にポップコーンを売りにくる『ポップコーンおじさん』が現れた。
そのポップコーンはいつもフワフワの熱々で美味しくて、しかも、一掴み10円と安かったから、たちまち子どもたちの間で人気になった。
「おじさん、どうしてこんなに安いの?」
ある日、おじさんに聞いてみると
「豆だけでできるからね。光熱費がかからないんだ」
と言った。コウネツヒ? よく分からなかったけれど、安いならいいやと思った。
また、別の日、カゴの中に山盛りいっぱいにあったポップコーンがすべて売り切れてしまい、買えなかった子は泣き出してしまった。すると、おじさんは
「ちょっと待ってて」
というと、自転車にまたがり、公園の周りをグルグルと回り始めた。
1周すると、カゴの中に入っていたペチャンコの袋が大きくなったような気がした。
2周すると、明らかに袋はカゴの半分くらいになった。
3周すると、袋はカゴいっぱいになり、4周すると袋からポップコーンが弾け飛んだ。
「うわー!!」
「魔法使いだ!」
「マジックだ!」
子どもたちの前でおじさんは自転車を停めると
「おまたせ」
と言って、さっきまで泣いていた子にポップコーンをあげた。
できたてフワフワ、サクサク。一度食べた子までまた並び直して、ポップコーンをおかわりしようとしたけれど、おじさんは
「ポップコーンはおやつだから、食べすぎると夕飯が入らなくなるよ」
と言って、同じ子に1日2回以上は決して売らなかった。
そんなある日、お母さんたちの何人かがおじさんになにかを言ったら、翌日からおじさんは姿を見せなくなってしまった。
子どもたちみんなで来る日も来る日もおじさんを待っていたけれど、おじさんは二度と現れなかった。そのうちみんなおじさんを待たなくなって、思い出すこともなくなった。
それから十数年経ち、大学生になった僕は、夏休みを利用して、海外に放浪の旅に出掛けた。
ある貧困の地域に行ったとき、子どもたちが広場に集まって歓声を挙げていた。
「ポップコーン!」
「ポップコーン!」
子どもたちがみんな目を輝かせている。
(ポップコーン?)
不思議に思い近づいてみると、子どもたちの輪の中心にいたのは、あのポップコーンおじさんだった!!
おじさんは子どもたちにポップコーンを配っていたけれど、あの日とは違うのは、子どもたちからお金を貰っていなかったのだ。
僕もおじさんを囲む輪の中に入っていった。
「今日はまだ一度もポップコーンを食べていないので、売ってくれませんか?」
僕は日本から持ってきた10円玉を出した。おじさんは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに一掴みのポップコーンをくれた。
あの日食べたフワフワサクサクの味がした。
僕はその国のお札数枚を無造作におじさんに握らせると
「この子たちのために」
と言って、その輪から出た。背後からは、子どもたちのキャッキャと嬉しそうに騒ぐ声がいつまでも響いていた。
(終わり)
古雑誌から『自転車』『高温』をランダムに抽出。その二つの言葉から連想して、今回のショートショートを作りました。
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