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こぐま座α星より愛をこめて~Base Ball Bear『ポラリス』

好きなバンドを決める基準として「メロディが良い」「声が良い」「歌詞が良い」「演奏が良い」「立ち姿・佇まいが良い」の5項目があって、どれかがあんまり良くなくてもどれかが高ければその分好きになっていくわけだけど、全てがハイレベルで、ほとんど綺麗な五角形みたいなバンドにはなかなか出会わない。しかし初めて聴いた時からずっと高水準で居続けくれている希少なバンドもいて、それがBase Ball Bearなのだ。

新作音源としては1年9カ月ぶり、1st EP(EPって銘打たれるのは初なのよね、今まで3,4曲入りの作品はすべてMini Albumだった)『ポラリス』も、その美しいバランスを今のベボベとして徹底的に追求した作品だった。2016年以降スリーピースバンドとなった彼らが、音源において初めてギター1、ベース1、ドラム1の編成で作り上げた新しいバンドのグルーヴ。今作はその骨組みそのもので勝負する作品であり、つまりその骨組み自体がめちゃくちゃカッコ良い。剥き出しだからなのか、風通しも最高!

前作『光源』収録の「逆バタフライ・エフェクト」で示唆されたリズムで引っ張るダンスロックは、M1「試される」で更に削ぎ落され形で提示された。サビ頭にタイトルを連呼し、歌謡曲に寄った強いメロディが光るベボベのキャッチーサイドの最新型だが、歌われる事象は実に興味深い。1番では、黒髪というキラーワードを引っ張り出してベボベ性のある場面を表現。しかし2番では、社会派に振り切って別角度から<試される トリッキーなこの世界>を描き出す。そのどちらもが混ざり合ったまま、至上の高揚を持ってラストへ向かっていく新鮮な構造を持った楽曲である。

ベースとドラムが主体を担うという部分をより強めたのがM3「PARK」。サビ裏とソロ以外でほとんどギターは鳴らされず、おまけに思いっきりラップによる歌唱である。2018年に始動したマテリアルクラブは小出祐介の日本語ラップへのラブレター的な側面もあったプロジェクトだが、その影響はベボベにも還元。タイトルは、この度設立された自主レーベル「Drum Gorilla Park Records」(楽しそうな名前だ)から取られている。その号砲を打つように、Base Ball Bearの現在位置、そしてベボべのフロントマン・小出祐介として意思表明が追いたてるようなフロウとでかまされていく、熱狂度の高いナンバーだ。

そして表題曲M4「ポラリス」はメンバー3人が、1~3番を歌い分けるという、チャットモンチーで言えば「長い目で見て」な、とにかく楽しげな曲。歌詞も、3にまつわるワードを大喜利的に出していく、小出祐介のオタク趣味が全開なもの。歌い出しの「三枚起請」が、1サビのオチの<また掴みそこね 朝寝>と掛かっていたり(ちなみにこの演目を得意としていた志ん朝は"三"代目)、歌詞はほぼ全フレーズが音楽アニメ特撮ゲームベボベ自身からの引用なので、いちいち注釈つけたらキリがないのでヤメにするけど、こういう歌でありながら<One&Two&Threeでまた掴みたいな君のハート>と我々に目線が向けられて終わるのがたまらない。

[志ん朝の弟子・志ん輔による「三枚起請」がApple Musicで聴けます]

アッパーな楽曲が並ぶ中、リード曲「Flame」がほろほろとしたミドルテンポなのも良い。明瞭なストーリーは展開されず、何枚かの写真がぱらぱらと捲れていくような詞世界はかつてない作風。「いなくなるのって、いないってことがずっと続くことです。いなくなる前よりずっと傍にいるんです。」とは、ドラマ「カルテット」の巻真紀(松たか子)の台詞であるが、この曲はこういった不在や空洞に思いを向けた感情と呼応し合っているような気がする。

炎とは熱く苦痛をもたらすと同時に、浄化作用を持ち、暮らしには欠かせず、お祝いの席ではケーキの上にそびえ立つものである。<煤だらけの顔で抱きしめた暮らしの中のフレーム>という一行を取り出しても、様々なフィーリングが込められている。穏やかさと痛々しさがレイヤーのように折り重なった心の内を静かな視点で捉えてある。ミュージックビデオも、そこにかつて在った日々だと思うと、こんなどうかしてるほどの惚気映像も胸を突き刺してきやしないかい。

配信されてい4曲だけでも十分に今のベボベを伝えているのだがCD盤には2018年10月21日に日比谷野外音楽堂で開催された「日比谷ノンフィクションⅦ」からのライブ音源8曲+3人で再録された代表曲「17才」(関根史織のコーラスがとても大人になっている)が収録されている。2018年に本格始動した3人体制のライブが『ポラリス』に結びつくまでを感じるには最適であるし、2019年2月よりスタートする「LIVE IN LIVE~17才から17年やってますツアー~」が2007年の2ndアルバム『十七歳』をフィーチャーした公演になる予告として機能している。

ライブ音源において、特筆したいのが3曲目の「君はノンフィクション」だろう。2013年の「日比谷ノンフィクションⅢ」においてスローテンポなアレンジで披露されたことはあったが、原曲に近いBPMでライブ披露されるのは初のこと。しかも、原曲で岡村靖幸プロデュースによって配置された硬質なシンセが、関根史織の演奏するチャップマンスティックの浮遊するような音色で近いニュアンスを呼び起こしている。ベースラインとメロディを同時に弾ける新たな武器の導入が、ベボベの楽曲の可能性を拡大していた。

4人時代の楽曲ばかりが収録されているのだが、原曲からマイナス1になるわけでなく新しいアイデアとK.U.F.Uで再構築されている。どの曲もバッキングとリードフレーズを混ぜ合わせてリアレンジされ、ギターソロは丸ごと変更。「yoakemae」のギターフレーズなんて半分ほど差し替えられているし、ほとんど生まれ変わったような響きを持ってこちらに届けられる。今のベボベは、過去の楽曲も新曲として聴かせられるのか、、と思うと、まだまだ未知なるアプローチが無数にありそうだなぁと。

メジャー1stミニアルバム「GIRL FRIEND」を踏襲するように、4曲入り+電波塔モチーフのジャケットというリリース形態も含めて、新たなデビュー盤という印象を強く受ける本作。夏の大"三"角形から見つけ出せる北極星の名前をタイトルに冠し、どこまでも"3から導き出す"ということに拘った本作。きっとこの先に待つアルバムのトリガーになるのだろう。あと、ポラリスってこぐま座α星なわけで、Base Ballには何度か関わりつつ、Bearとは無縁だった彼らがようやく熊に触れた作品という点でも重要作なような気がしないでもないような。

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