きのこ帝国とは

2019年5月27日18時のこれである。週明けに投下された憂鬱案件だった。

昨年秋からライブ活動・楽曲制作を休止していたので、その流れだと捉えればごく自然なことだ、、と受け入れる気にはなかなかなれない活動休止である。やむを得ない理由であり、また、きっといつか訪れる、と覚悟していたことなのかもしれない。その時が遂にきたのだろう。とはいえ、個人的には2010年代のベスト・オブ・バンド。ペースは落ちてもきっとまた出続けるであろう新譜を楽しみにし、きっと年1であるであろうツアーを待ち望んでいたかった。しかしそうはうまくいかんのよ、分かっていた、分かっていたけどもさ!辛いものだ。特に結論もなく書き始めてしまったのだけど、まとまりそうもないのでディスコグラフィーを聴き返しながら物思いに耽りたい。

渦になる

↑にも選出したけど、原点にして特異な輝きを放っている。「夜が明けたら」をYouTubeで観て、そのミニマルなビデオがすーっと沁み込んできた。当時は一人暮らし始めたての春、部活もサークルも入っておらずありあまる時間を、ぼんやりとした不安と、つまらん同級生連中にイライラすることに費やしてたので、このアルバムは体によく馴染んだ。「スクールフィクション」はきのこ帝国のベストソングだと思っている。6分間、異様な緊張感で青く荒みながらもそっと寄り添ってくれた。柔らかいだけが優しさじゃないんだな、と。そして「Girl meets NUMBER GIRL」に顕著だだけど、鬱屈した日々を生きる少女、のイメージがこの頃の佐藤千亜妃の佇まいに重なって、切実なものを感じて。マイボスに出てたあの子だと知るのは少し先の話。

eureka

歌っている事象は『渦になる』に連なるものだけど、サウンドのアプローチがぐんと広がっている。"教室の隅にいる君が見る景色"というイメージを引き継ぎつつ、ポップに仕上げた「風化する教室」が好例。「国道スロープ」のようなギャンギャンなギターロックももちろん気持ち良い!ちょうどこのリリース後、広島のMUSIC CUBEというイベントで初めてきのこ帝国のライブを観た。前2列目くらいで観て、没頭してたからかあんまり覚えてない。でも最後にやった「明日にはすべてが終わるとして」の神々しさに酔いしれた記憶が。結果として最後にきのこ帝国を観た「宗像フェス2019」でも最後に演奏されていた。やはり常にそういう覚悟があったのかな、と今になって。<僕たちは忘れたりしたくないのに 忘れてく生き物だから>と、ねぇ。

ロンググッドバイ
タイトル通り、ここまでの流れに一旦別れを告げるようなさっぱりした聴き心地がある。ナタリーのインタビューで"ポップさがある音楽の一歩目"と語っている通り、轟音であったり怒りや負の感情よりも、切なさが強く印象に残る。愛しい思い出にそっと手を振るタイトル曲、惜別の瞬間を捉えた「海の花束」に加え、新機軸なメロウさを持つ「パラノイドパレード」も素敵だ。詩としても、飲み会の帰り道のシーンを捉えた何気ないもので。この青春のテーマは後の作風にも大きく反映されている。節目のEPである。この翌年にZepp Fukuokaの「F-X2014」で、2度目のライブ鑑賞。リハからがっちり観たのだけど、当時の新曲「東京」を聴いた。後の代表曲は、ラフな演奏においても強烈な輝きで。本当に、あぁ変わっていく、を実感した時期。

『東京』
フェイクワールドワンダーランド

東京」を予告とし、現在この街で生きるありのままの感情が描かれた転換作。いや、転換というよりは本当に素直な気持ちで歌を歌うようになった、ということで。僕はきのこ帝国の何が好きだったのか、とよく考えるのだけど、やはりいつも結局はメロディが好みであることに着地してしまう。全編に渡り、その魅力が満載。「疾走」の最後の合唱とか、歌が健やかに鳴り響くすばらしさを讃えているよう、「Telepathy/Overdrive」の痛快さもそうだね。2017年のCDJで聴けた「ラストデイ」も非常に沁みた。「東京」に並ぶヒットといえばやはり「クロノスタシス」だ、いつだって夜道を歩きながら穏やかな気持ちで聴ける。缶ビールは飲めないので、果実サワーでお願いしたいのだけどね。ただとにかくツアーやってくれなさすぎて悲しかった期。


桜が咲く前に
猫とアレルギー

メジャーデビュー直後の作品群は、ストリングスやピアノなど今まで排してきたようなポップス的な編曲術を迷いなく選び取り、ソフトで繊細なサウンドを紡いである。そんな中でも1stシングルのカップリングにノイジーで蠱惑的な「Donut」を放り込む姿勢は、どんな音楽も好きだから好きなようにやり続けるんだな、と思って頼もしかった。かつての想い人への手紙でしかない楽曲たち、佐藤千亜妃の表現はどこまでも着飾らずにいてくれる。このアルバムのツアーは2回あって、1回目のほうはインディーズ期の楽曲も多く披露してくれて。すっかり柔らかい表情になった佐藤千亜妃が歌う「足首」とか、なんかまるで昔話を語りかけてるみたいな新鮮な聴き心地だった。こうやって、少女もバンドも大人になっていくんだな、と芯から実感した。

愛のゆくえ

映画主題歌となったタイトル曲を軸にしたアルバム。前作から一転し、夜の深淵を想起させるひんやりとした感触に、ストイックでダンサンブルなグルーヴを組み合わせたアプローチ。回帰的に見せかけてやはりまた違う地平を踏み進めるという、バンドとしての野心が垣間見れる。そういうリズムの導入は「クロノスタシス」でも試みてたことだが、機が熟すのを待って、バンドの成長とともに腰を据えて取り掛かるという着実な面の現れでもある気が。『猫とアレルギー』で得たポップネスは完全に捨て去ったわけでなく、ラスト2曲にしっかりと反映されている。重厚だからそれほど気軽に聴けないのだけど、じっと目を瞑り聴きたい1枚。そしてこの初回盤のDVDがバンド唯一の映像作品って事実よ。是非、アーカイブスを作品化して頂きたい。

タイム・ラプス

10周年を祝してリリースされた現時点でのラストアルバム。集大成的であると語っていたし、ある種のやりきった感が全編に渡ってホッとする聴き心地を与えてくれている。昨年秋から活動休止になった時も、そういう説得力はあった(だって自主制作盤の復刻がついてるし、総括しにいってるやん、、って)けど、いざ本当に活動休止となってから聴く本作は一層の切なさと清々しさが鳴り響いている。きのこ帝国が音楽を伝えるためのプロジェクトだとすれば、サポートを入れてでも活動し続けても何らおかしくないのだけど、きのこ帝国はあくまでバンドであり、大学の友人の集まりであり、青春なのだろう。とても不器用なやり方だけど、脱退するシゲさんの籍を残したまま活動休止っていう選択。これこそが正しい在り方なのだ、きっと、きっとね。

青春はプロジェクト化しないし、きのこ帝国も終わりはしない。生きてればきっといつかは、と!音楽は消えないよ、と!そういうものだよな、と!

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