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珈琲の大霊師

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シャベルの1次創作、珈琲の大霊師のまとめマガジン。 なろうにも投稿してますが、こちらでもまとめています。
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2019年3月の記事一覧

珈琲の大霊師151

珈琲の大霊師151

「ジョージはさ、自由になりたかったんだと思うんだ。いろんな事ができる奴だけど、やらなきゃいけない立場にいたい奴じゃないんだよね。だから、マルクの裏社会からも足を洗ったんだもん。あんたの勝手に、一生振り回されるのは可哀想だよ」

「……ッ!!わ、私は、振り回すつもりなんて」

「王族になるって、そういう事なんじゃないかい?ね、リフレール。あんた、一人の、ただの女としてさ。ジョージに見てもらいたいって

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珈琲の大霊師150

珈琲の大霊師150

「嘘です!ル、ルナさん、不利だからって、私に、そんな下劣な嘘をつくなんて!見損ないました!」

「あんた、ここをどこだと思ってるんだい?そして、あんたは何者だい?」

「何ですか?何を言いたいんですか?」

「ははっ、正直良い気味だね。他人を振り回すっていうのは、こういう気持ちなんだね。どうしたんだい?リフレール。いつものあんたなら、こんな簡単な謎解きすぐに察するのにさ。仕方ないねえ。あんたは、こ

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珈琲の大霊師149

珈琲の大霊師149

 国賓の部屋の扉を、ルナはノックする。

 そこに緊張は無く、ルナは自分が自然体であることを自覚していた。

 少しすると、部屋の中から静かに近付いてくる気配があった。

「はい。……えっ?」

 扉を開けて出迎えたリフレールが我が目を疑う。何故なら、そこに自分が知っているはずなのに知らない女性が立っていたからだ。

 そんな顔は知らない。そんな顔をしているはずがない。もし来たとしても、そんな顔を

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珈琲の大霊師148

珈琲の大霊師148

 午後になって出勤したルナに事情を聞く為、水宮の巫女長ケルンは廊下を歩いていた。

 そもそも、ほとんどの巫女は寮で生活している為、遅刻という事態がまず無いことだったし、ケルンが暇をもて余していたという事もあった。

(ゴウさん、最近見ませんね……。あっちで、よろしくやってるんでしょうけど。もう、とっくに契約期間は終わってるはずなんですが)

 数ヵ月前、リフレールの使者から応援要請を受け、我こそ

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珈琲の大霊師147

珈琲の大霊師147

(あー、やっちまったな)

 朝、腕枕で気持ち良さそうに眠っている一糸纏わぬルナを見ながら、ジョージは一人ごちた。

 後悔はしていないが、面倒な事になりそうだとは思っていた。酒の勢いもあったが、ルナに感じている愛情に偽りはない。

 調子に乗って早朝まで6回戦もした以上、体の相性が悪いわけがなく、また久しぶりの情交は素直に気持ちが良かった。

 ルナも今まで相当我慢していたと見え、積極的だった。

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珈琲の大霊師146

珈琲の大霊師146

「……なぁ、これ、真面目な話か?」

 ジョージは、ルナの頭をなんとなく撫でながら尋ねた。

「……顔見て解る、だろ?」

 こんなルナを、ジョージは知らない。いつも一緒にいるのは、幼馴染みのルナであって女のルナではないのだ。

「意味、分からない訳じゃないんだろ?知ってるよ。ジョージが、あたしに隠してきた事。母さんにも言わなかったこと」

「……何?」

「あんたに惚れてる、嫉妬深い女がさ。あた

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珈琲の大霊師145

珈琲の大霊師145

 ごろっと魚介類のスープ、地鶏の串焼き、スパイスを利かせた魚の竜田揚げ、食も酒も進む料理群がジョージの前に差し出される。

「さて、こんだけありゃ足りるかな?あたしも飲んでいいかい?」

「おう。グラス用意して待ってたぞ。飲むならやっぱ、一人より二人だよな。乾杯!」

「ふふ、乾杯」

 チンとグラスが軽くかち合って音が鳴る。ちなみにジョージとルナの分、2つしか無い高級品だ。

「いやしっかし、久

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珈琲の大霊師144

珈琲の大霊師144

「どうしたんだい?急に来るから、みっともない所見られちゃったじゃないか」

  その目はまだ赤かったが、ルナはジョージを笑って迎えた。

「何かあったのか?」

 当然の疑問だ。ルナが泣いて酒に飲まれるなどという姿は、ジョージとルナの長い付き合いの中でも初めてだったのだ。

「……まあ、ちょっとね。酒飲んだら忘れたよ。ジョージこそ、何か話があるんじゃないのかい?」

 ルナがそこに触れて欲しくなさ

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珈琲の大霊師143

珈琲の大霊師143

 あたし達が住んでいた孤児院は、マルクの北の山間にある。小さな農村で、名前は確かピットっていう名前だった気がする。殆ど話題にも出ないから、住んでる人間でさえ名前を忘れがちな程小さな村だ。

 毎日近所の川に水を汲みに行き、畑の手入れをして、罠を見回って獣を獲り、毎日細々とだが楽しい日々を過ごしていた。

 あたしとジョージは、同い年って事もあって気が合った。下の面倒を見るにも、一人でやるのと二人で

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珈琲の大霊師142

珈琲の大霊師142

 その夜、シルクが働く飲み屋は、ジョージに惚れていた裏社会の女達が貸し切りで酒を飲んでいた。

 皆、うちひしがれてやけ酒であった。噂の人物である、サラク王女リフレールとはなんぼのもんじゃいと水宮まで見に行って、偶然出てきたリフレールが固まって睨む女達に微笑んで手を振ったら、噂以上の美しさに目と心をやられて帰ってきたのだ。

「あの幼馴染みくらいなら、勝てると思ってたのに……何よあれ。同じ人間?胸

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珈琲の大霊師141

珈琲の大霊師141

 翌日、繁華街の裏通りの、大きくて古びた建物の前にジョージは立っていた。

 辺りにはガラの悪い連中がたむろして、入り口にはゴウと似たり寄ったりの体格の男が二人、脇を固めていた。

 ジョージは何でも無いことのように、入り口を通ろうとしたが、その二人はジョージの前をサッと塞いだ。

「ジャン=バルクに用がある。どけ」

 ジョージは、敢えて高圧的に言った。

「あぁん?誰だてめえ。……見ねえ顔だな

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珈琲の大霊師140

珈琲の大霊師140

「潮の香りがしてきました!」

「ああ!帰ってきたな!」

 ジョージとモカナは馬車の扉をガバッと開けて、思い切り空気を吸い込んだ。

 小高い街道から眼下に見えるのは、水の都貿易都市マルクだ。海面が乱反射して煌めき、海から吹き上がる潮風がモカナとジョージの髪を梳いていった。

 ジョージ達は、帰ってきたのだ。

 二人がはしゃいでいる中、リフレールだけは何か思い詰めたように押し黙っていた。

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珈琲の大霊師139

珈琲の大霊師139

「そういう経緯で、このプワルでは、花の精に対する信仰が根付きつつあります。その信仰がリルケさんにも宿り、その姿を見ることができるようになってきたのではないかと」

 マリュの長い話が終わった後、リルケがジョージ達の前に立った。

 それに反応したのは、まだジョージとモカナのみだ。

「ジョージさん、私、しばらくここに残ろうと思うんだ」

 リルケは寂しげに笑って、そう言った。

「そうか。俺もそれ

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珈琲の大霊師138

珈琲の大霊師138

 それは、春から突然冬になってしまったかのような光景だった。

 プワル村に近づくに従って増えてくる道端の花々が、一様に細く、白くなって枯れているのだ。

 最初に気付いたのは、プワル村とマルクの間を往復する花売りの行商人だった。何十年も見慣れた光景だけに、違和感の正体にはすぐに気づく事ができた。

 白枯病は、その名の通り植物に取り付いて枯れるまで栄養を貪り食らう、凶悪な伝染病だ。固い幹を持つ樹

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