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珈琲の大霊師151

「ジョージはさ、自由になりたかったんだと思うんだ。いろんな事ができる奴だけど、やらなきゃいけない立場にいたい奴じゃないんだよね。だから、マルクの裏社会からも足を洗ったんだもん。あんたの勝手に、一生振り回されるのは可哀想だよ」

「……ッ!!わ、私は、振り回すつもりなんて」

「王族になるって、そういう事なんじゃないかい?ね、リフレール。あんた、一人の、ただの女としてさ。ジョージに見てもらいたいって思った事ないのかい?」

「!!」

 手強い。今日ほど手強いルナに会ったのは始めてだ。的確にこっちの心理を突いてくる。

 冷静になりたいのに、追い詰められてばかりだ。

「あんたは、いつも責任ばっかりだ。国の為に国の為にって、そんなに言うなら国と結婚すればいいよ。ジョージを巻き込まないでくれないかい?」

 痛い。胸が張り裂けそうになる。自分の不純さを見せ付けられて、辱しめられて、批判されて、全て事実なのだ。

「……っ!!私は、私は、王女です。王族として、ジョージさんが欲しい。だって、ジョージさんは、もう、私にとっていなくちゃならないくらい、大事なんです。始めての、背中を任せられる人なんです。願っていけませんか?ジョージさんがいなかったら、私は今ここにいません!叔父様も父様も、敵だったドグマだって、ジョージさんがいなかったら、皆、皆死んでいたかもしれません。ジョージさんが来てくれるなら、私なんでもします。ルナさんにしかできない事だって、いつかできるようになってみせます。私は、ジョージさんとなら、幸せになれる。国民を、幸せにできる。歴史に残る、名君になって、皆が笑顔でいられる時代を………」

 あぁ………

 言いながら、自分で絶望する。私は、どこまでも王女だ。

 名誉が欲しいわけでもない、金も権力も欲しいわけではない。そんなものは、あれば使えるただの道具だ。

 ただ、国民の幸せが、私の幸せだ。叔父王が倒れた後、各地を慰労に行った時の民の苦しそうな顔と、解放された時の喜びの笑みが忘れられない。

 明るい未来を約束した人達がいて、自分にはそれができて、だから、それをする事は義務ではなく、純粋な私の本心。欲望と言ってもいいかもしれない。

 私は国で、国は私。

 そう、自然に感じてしまう程、どうしようもなく、私は王族なのだ。

「それは、あたしに言うべき事じゃないよリフレール。………そっか、ジョージがその気になったら、今の事言おうとしてたんだね?」

「………何なんですか?今日のルナさんは、まるで人の心を読む魔女みたいです」

「あたしも、女だったってだけさ。……同じ女だから、あんたの気持ち、分かる所もあるってだけ。全く、あーもー。はぁ、あんたさ。なんでさっさとジョージ押し倒さなかったの?」

「え?えっ?」

 突然、下の話になって、リフレールが顔を赤くする。

「何ヵ月一緒にいたと思ってるんだい?噂だけで、あたしがそれでおかしくないって思うくらい一緒にいて、何やってたのさ?」

 ぐぅの音も出ない。実は、リフレールにこの言葉を言った者はルナが始めてではなかった。

 エルサール王、ルビー、ハーベンは無論の事、ドグマに至っては呆れた顔でこう言った。

「貴様は、王としては優秀かもしれんが、女としては落第だな」

 もちろん、その時は顔を水でひっぱたいてやったのだが。

「今回は結局ただの噂だったけどさ。あんたが、ジョージと先に寝てたら、いくらあたしが本気出して迫ったって、ジョージも抱いてくれたか分からないよ?」

「う……、そ、その、これでも私は、精一杯ジョージさんに、その、迫る……まではいかなくても、好意に気付いて貰えるように努力してました。私は、ジョージさんが私を求めてくるなら、いつだって応えるつもりだったんですよ?」

 なんだか一生懸命訴えてくるリフレールに、毒気を抜かれてしまって、ルナは顔を覆って溜め息をついた。

「…………はぁ。長年幼馴染みの関係から抜け出せなかったあたしが言うのも何だけどさ。あんた、鳥じゃないんだから。相手の周りでピヨピヨしたり、羽広げたり、巣作ったりで人間の男が気付くわけ無いじゃないか」

「なっ!?私が鳥みたいと言いたいんで………」

 と、怒ってみたはいいものの、自分の行いを思い出してみると………

 まずやったこと。側に居て、甲斐甲斐しく世話を焼いた。特にお茶とか頑張った。(相手の世話焼きアピール)

 長旅で飽きないように、よく話し掛けた。時々好きですよと気持ちを込めて見つめてみたりした。大体は数秒しかもたなかった。(ぴよぴよとか、求愛のポーズ)

 ジョージがサラク入りした時用に、部屋の準備をしていた。部屋には珈琲を焙煎できるだけの小さな厨房もあって、リフレールの私室と扉一つで繋がっているという許嫁仕様。(巣作り)

(やってる事が、鳥と同次元!?)

「………ちょっと、リフレール。まさか、図星……じゃないよね?」

「……ルナさん、私って、鳥類だったんでしょうか?」

「……あんたってさ。頭良さそうで、なんかすっごく抜けてるよね。あぁ、そういえば最初っからそうだったっけ。あんたって……」

 虚ろな笑みを浮かべるリフレールに、ルナは、取り合えずとどめを刺しておくことにした。

「ツメが甘いよね」

 がくり、と、リフレールは項垂れた。

 何故か、本当なら勝ったようなもののはずなのに、ルナの胸に湧いたのは勝利の余韻ではなくて、リフレールを心配する気持ちなのだった。

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