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珈琲の大霊師146

「……なぁ、これ、真面目な話か?」

 ジョージは、ルナの頭をなんとなく撫でながら尋ねた。

「……顔見て解る、だろ?」

 こんなルナを、ジョージは知らない。いつも一緒にいるのは、幼馴染みのルナであって女のルナではないのだ。

「意味、分からない訳じゃないんだろ?知ってるよ。ジョージが、あたしに隠してきた事。母さんにも言わなかったこと」

「……何?」

「あんたに惚れてる、嫉妬深い女がさ。あたしに教えてくれたんだ。ジョージが、マルクの裏の顔役だって。女とも随分遊んでたって聞いたよ?」

「………あぁ~。マジだったんだな、そういう話」

 昼間のジャンとの会話がジョージの脳裏に浮かんだ。

「あたしは、初めてはジョージって決めてたから。だから、その、した、ことないんだけど……」

 ちなみに、ジョージもルナも20代半ばだ。この世界で言うと、かなり遅い。

「……えっ?あれ、お前、村の誰かと付き合ってたじゃ……」

「……あの後すぐ別れたよ。元々、マルクに行ってばっかのジョージに当て付けたかっただけだもん。……なに、あたしが、あいつと寝たって、思ってたの?」

 燃える瞳がジョージを射抜く。ジョージは、混乱しながらも必死に頭を回転させていた。

「……マジかよ。あー、悪い。思ってた」

「……むー」

 ぎりっ、とジョージの脇腹をルナが思いっきり捻った。

「いでっ!いや、だってよ?お前、あんな娯楽の無い田舎でやることなんざ一つしか無いだろうが。大体な、お前久しぶりに会った時の俺の衝撃を知らねえだろ」

「なによ」

「お前、その、前はもっと痩せっぽっちだっだだろ?それがだな、いつの間にか女らしく肉ついてるわってか、この胸だ胸!!」

 半分やけくそで、ジョージはルナの大きな乳房をつついた。

「お前、でかくなりすぎなんだよ!」

「……えっ?それが何の関係あるの?」

「野郎に揉まれてでっかくなったのかと思うだろ!」

「……これって、揉むと大きくなるの?」

 まさに初耳と言わんばかりに、目を丸くするルナに、ジョージは過去のわだかまりや、勝手な妄想が解けていくのを感じた。

「……あぁ、なんかもう……」

「ねぇ、ジョージ。それって、焼きもち、焼いてくれてたのかな?」

「知らねえ。むかついたのは確かだ」

 多分、当時の自分なりの嫉妬だったんだろうとは、ジョージも自覚はしていたが、それを素直に認めたくは無かった。

 無かったが、割とバレバレであった。

「えへ、えへへ。……ねえ。その、ジョージが勘違いした体、今は、ジョージのだよ?あたしは、もうジョージにあげちゃったから、好きにしていいんだよ?ほらほら」

 ぐいぐいと、嬉しそうに、楽しそうに体を押し付けてくるルナに、ジョージの中の複雑な感情が高ぶっていった。

(あー、そうだった。こいつ、下の連中の前じゃいつも大人ぶってたけど、本当は甘えたがりだったんだ)

 よく二人きりになると、用も無いのに手を握ってきたり、眠れないと布団に潜り込んでくる子供だった。

 それが、状況に合わせて、相手に合わせて、大人ぶっていたのが、いつものルナだったのだ。

 小さい頃からの家族としての想い、思春期に溜め込んだ想い、そしてルナから贈られた想い、それを酒が増幅して愛しさとなってジョージの胸を支配した。

「おい」

「なに?」

「後戻りはできねえぞ?」

「……あたしは、とっくに後戻りできないよ。もう、ただ側にいるのは、我慢できないよ」

 こんな素直な言葉が自然と出てくる事に、ルナ自身も驚いていたが、もう気持ちを押し止める事はできなかったし、する必要も無かった。

「お前、可愛いこと言うなあ」

 ジョージは、穏やかに笑って、ルナを抱き締め、唇を奪った。

 夜は、まだ長い。

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