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花摘み

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ふわふわ、ぴかぴか、しゃりしゃり
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#スキしてみて

レース編みの光を浴びて

レース編みの光を浴びて

午後の光というのは、どこか穏やかなようでいて情熱を秘めていたりするので、なんとも好ましいなあと思う。

桜が散ったあとの季節の太陽の光は、春にしてはやや強すぎて、夏というにはまだまだ未熟だけれど、私にはちょうどいい。やさしくてほがらかでさわやかで。風がぬるくて気持ちがいい。木かげがひんやりしていて気持ちいい。

大体、季節というものは総じてたちが悪い。季節は私の手をとって巧みにエスコートし、心底楽

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におい

におい

小学生だったころ、同級生の誰かが脱いだまま置き忘れている体操服とか、制服の上着とかのにおいをかいで、その持ち主を当てることができた。

田舎の小学校で、学年の人数が20人にも満たなかったからというのもあるのだろうけれど、私は同級生みんなのにおいを知っていた。私だけではなく、きっとみんなもそうだった。

たとえ誰かが分からなくても、そういうときは別の誰かがくんくんと鼻を動かし、「これはあいつのだ」「

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散文的な、詩的な

散文的な、詩的な

熱しやすく冷めやすいというのは、少女にはありがちなのだろうと思いつつ、私いつから大人の女になってしまったのだか、自分でもよく分からない。

分からないなりに、大人といっても差し支えないんだろうな、などと考えている。

ただ同時にこうも思う。つまり、少女だったころの私といまの私はずっと地続きでつながっているのに、その境目がどこかなんて、一体どうして線引きできるだろうか。

虹やゆうやけのグラデーショ

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陰鬱なる土曜日

陰鬱なる土曜日

土曜日じゃないのに土曜日とタイトルをつけた。そして夏じゃないのに、夏に撮った写真を使うことにした。そうでもしないと、やってられない気分なのだ。冬のつめたい風に負けてしまいそうなのだ。

たとえば非常階段の3階に立ち、爆音で音楽を聴きながら雨交じりの風に吹かれても、この気持ちはどうにもならない。胸の中へ押し込むことも、逆に追い出すこともできない。だったら、書くしかないではないか。

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とびき

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さざなみ、鳥、午後の光

さざなみ、鳥、午後の光

季節が少しずつ冬に近づいている。

風が強くつめたくなり、昼は短く、代わりに夜が長くなり、太陽が私を照らしていてくれる時間がどんどん減って、それが頭を抱えたいほど憂鬱だというのに、月は空が凍てつくにつれて美しくなっていくのね。なぜなんだろう。

ここ最近、ふとした瞬間に言いようのない、苛立つような、哀しいような、焦るような、そういう気持ちが私を満たして、それにすぐ応じてしまう自分がすこし憎い。

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あたたかなお茶

あたたかなお茶

いつもどんなに明るく、楽しく、朗らかに生きているように見えるひとにも、ひとりでは抱えきれないほどのかなしみや、ふとした瞬間におそいくる痛烈な孤独の時間があって、私たちは胸のどこかでそのことを分かっていなくてはならないと思う。

そのひとの本当の部分は、いま見えているところだけではない。

私たちは他者に打ち明けたくない心をうまく隠したり、見せないでいたりすることができる。だから私たちは誰かの表面を

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花言葉のこと

花言葉のこと

花は好きだけれど、花言葉は好きじゃない。花にまで意味を与えたがる人間が、すこしだけおそろしいもののように思える。

花は花として咲いているだけでうつくしいのだから、別に意味などいらないのにね、と思ってしまう。

けれど花言葉を好きだというひとはきれいだと思う。純粋で、やさしい人だと思う。花言葉を信じられるということは、私には、本当にやさしいひとにしかできないことのように思える。

私はどこかすこし

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わすれられないもの

わすれられないもの

わすれられないもの。幼いころ、手から離れて青空に飛んでいった赤い風船。鼠取りにかかった鼠を水に沈めた瞬間の祖父の横顔。恋人でも親友でもない男の子と、中学生の夏に半分こしたパピコ。ただただ小さな花を摘むだけの穏やかな夢。コントラバスの弓に塗る松脂の匂い。生まれたばかりの1人目の妹を病院に迎えに行った嵐の日。同級生の男の子達と成り行きで打ち上げ花火を見た中学生の夜。

インフルエンザで寝ていた平日の晴

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隣のアイスクリームは甘い

隣のアイスクリームは甘い

勝手に誰かや何かに期待して、それが叶えられなくて裏切られた気になって、それってまるでばかみたい、とたまに思う。

私たち、期待せずにはいられないのかなあ。

期待してるからこそ苦しいんだよね。絶対に裏切られないことがわかっている期待ならいいけど、それは期待ではなくて確信だし、だとすると期待って、裏切られることがあるからこそ期待なんだよ。だから苦しみを伴っている。

私は普段あまり要領がよくないし、

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