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死にぞこないの趣味の世界

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#小説

紫外線対策 ―手が「しなびる」とき

紫外線対策 ―手が「しなびる」とき

ある小説
最近、20世紀初頭のフランスの小説を読んでいる。
こんな話があった。
異国の地で、上流階級の既婚夫人と海軍将校が恋に落ちる話。いわゆる不倫モノだ。
将校は決闘をし、夫人の旦那の立会人二人を殺害し、海軍の職を辞し、夫人と駆け落ちする。
しかし愛する二人を待っていたのは、生活苦だった。

あるとき、彼の再就職先の工場で事故が起きた。彼は責任をとって退職を余儀なくされた。失業だ。いつもより早く

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ウエルベックに見られる女性像 ―『滅ぼす』から

ウエルベックに見られる女性像 ―『滅ぼす』から

ミシェル・ウエルベック(1956年生)は、僕とは異なり、保守派である。
ところが彼の女性観に、非常にしばしば、僕は同意してしまう。
そのことは僕をモヤモヤさせる。
でも同意するという事実と、向き合わなければとも思う。
読み終えたばかりの『滅ぼす』から幾つか例をひこう。

痛みについての特殊な知識
例えば次のシーン。
アルアルだ。とてもよく実感できてしまう。
ポールとプリュダンスという夫婦が、ある事

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ミシェル・ウエルベック『滅ぼす』を読んで

ミシェル・ウエルベック『滅ぼす』を読んで

読んで良かった。
あんな厚い本、上下巻で?と、最初は迷った。
でも古本屋で安く買えたので読んでみた。
読んで良かった。

保守派
ウエルベックは保守派で、僕はどちらかといえば革新派だ。
例えばウエルベックはナチズムとフランス革命を、どちらも既存の価値体系に取って代わることを目指していたとして、同一視する(『滅ぼす』第7部)。
当然のことながら、僕はこういう意見には反対だ。イラっとする。

けれども

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アニメ『薬屋のひとりごと』を観て -歴史のディテール

アニメ『薬屋のひとりごと』を観て -歴史のディテール

漫画や小説といったフィクションと歴史の関係について考えたい。
実を言うと、現在、私自身19世紀フランスの歴史小説を史料として読んでいる最中であって、この種の問題に関心がある。

何が目的なのフィクションが歴史を扱うとき、なによりも重視すべきはその目的である。

例えば『薬屋のひとりごと』の舞台は、むかしむかしのアジアの大国の後宮である。しかし時代も場所も明記されてはいない。つまりディテールは無視さ

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映画『私の知らないわたしの素顔』を観て

映画『私の知らないわたしの素顔』を観て

中高年の恋愛サスペンス映画。
50代以上、必見かな。
若いひとで、これを観て「おもしろい」と言えるひとは、よっぽどの文学好きでしょうね。

映画の冒頭、中高年男女の夜の寝室が赤裸々に、しかし美しく撮られている。
こういうシーンを撮れるのがフランス映画なのだ。

なりすましというテーマ主人公は比較文学を専攻する50代の女性大学教授(ジュリエット・ビノシュ)。結婚・出産・離婚と、人生フルコースを経験。

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