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死にぞこないの趣味の世界

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2023年3月の記事一覧

癒されるフレンチ・ポップスの紹介 ―Henri Salvador, « Je sais que tu sais »

癒されるフレンチ・ポップスの紹介 ―Henri Salvador, « Je sais que tu sais »

まったく急なことでした。
むかしの教え子のひとりが重病だとの知らせが届きました。
教え子と言っても、もう立派なレディですから、そして僕はジェントルマンですから、あんまり女性のからだのことを根掘り葉掘り訊くわけにもいきません。
僕はなにもできずにオロオロするだけです。
彼女と同じ病気になった経験がない僕は、彼女の苦悩をたとえ想像できても、実際には共感できないので、孤独を感じ、そしてまたオロオロします

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自己陶酔的フレンチ・ディスコの紹介 ―Jean Schultheis, « Confidence pour confidence »

自己陶酔的フレンチ・ディスコの紹介 ―Jean Schultheis, « Confidence pour confidence »

80年代の大ヒット曲、« Confidence pour confidence»です。

何度も繰り返されるフレーズは、

C'est moi que j'aime à travers vous
(俺が愛するのはあなたの瞳にうつった俺自身なのさ)。

これがこの歌のカナメです。
結局、誰だって、自分がいちばん可愛いんでしょ、エゴイズムこそが人間の真理なのでしょ、と。

しかしそんな「真理」を自覚し

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男くさすぎて訳せないフレンチ・ポップスの紹介 ―Alain Bashung, « Ma petite entreprise »

男くさすぎて訳せないフレンチ・ポップスの紹介 ―Alain Bashung, « Ma petite entreprise »

アラン・バシュング(1947-2009)はかっこいい。男ぽい。

僕は、男とは洋の東西を問わず、シャイな生き物だと思っています。
なかなかホンネが言えないのが、男という生き物ではないのかな、と。
だから頑張って歌にのせて勢いで本音を言う。
「愛がすべてさああ、いまこそ誓うよおお」みたいに。

しかしたとえ歌にのせても、本音を言えない男どもがいます。
そのひとりがアラン・バシュングなのです。

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フランス語でロックンロールを -Téléphone, « Métro c’est trop »

フランス語でロックンロールを -Téléphone, « Métro c’est trop »

「フランス語の歌なんか、めんどくさいよ。なに言っているか、よくわかんないし」とおっしゃる方のために、この一曲を紹介したい。

仏製ローリングストーンズ、テレフォンTéléphoneの初期の歌です。
歌詞らしい歌詞が殆どありません。
でもわかりやすいです。
言いたいことはひとつだけ。
「メトロ、うんざりMétro c’est trop」。

退屈な日々をロックンロールの爆弾でこっぱみじんにふっとばし

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イガイなようでイガイじゃないフレンチ・ポップスの紹介 -Mylène Farmer, « L’instant X »

イガイなようでイガイじゃないフレンチ・ポップスの紹介 -Mylène Farmer, « L’instant X »

私の庭ではクリスマスローズが満開です。

さて今回ご紹介するのはミレーヌ・ファルメルの「L’instant X(Xの瞬間) 」です。彼女は大抵、高音で歌いますが、この曲ではめずらしく低音の部分が長くて、それはそれで素敵です。

おもたくつらい一週間の日常が始まる。
だから救いを待望する―、そういう内容の歌詞です。
サンタクロースにお願いする品々のなかに抗うつ剤が入っているのが、妙にリアルですね。

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まるで映画みたいなシャンソンの紹介 -« Que reste-t-il de nos amours »

まるで映画みたいなシャンソンの紹介 -« Que reste-t-il de nos amours »

« Que reste-t-il de nos amours »は「残されし恋」という邦題で有名なシャンソンです。
古典ですから多くのかたが歌っています。
いろいろ聴き比べて、ひとつ気づいたことがありました。

この歌は気持ちをこめて歌ってはいけない。
静かに、自分を出さずに、ナレーターに徹したほうがよい。

歌詞が、あまりにも美しい牧歌的な田園風景をまぶたにうつさせるので、歌手が感情をこめ

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知的で優しいフレンチ・ポップスの紹介 -Alain Souchon, « Foule sentimentale »

知的で優しいフレンチ・ポップスの紹介 -Alain Souchon, « Foule sentimentale »

アラン・スーション(Alain Souchon)の1993年の大ヒット作を紹介したいと思います。
もう30年も前になるんですねえ。
ソ連の崩壊後、グローバル化が進展し、アメリカのライフスタイルが地球規模に拡大する感じだった、そのころの歌です。

テーマは大衆消費社会批判。
難しいテーマです。
だって下手をしたら、お説教ぽくなっちゃいます。
「私も反省したいと思います。これから努力したいと思います」

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強くて美しいフレンチ・ポップスの紹介 -Patricia Kaas, « Il me dit que je suis belle »

強くて美しいフレンチ・ポップスの紹介 -Patricia Kaas, « Il me dit que je suis belle »

日本人がフランス語の歌に持っているイメージって、なんだかブツブツつぶやいている、そんな感じじゃあないかしらん。
もう少し可愛い表現を使うなら、小鳥のさえずりのようにチュチュチュ、そんな感じ。

その一因はフランス語に「ウ」の音が多いこと。
「私は〇〇である」で、既にJe suis(ジュ・スイ)と二音も「ウ」があるのです。
英語のI am(アイ・アム)にまったく「ウ」がないのと比べれば、違いは明瞭で

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