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癒されるフレンチ・ポップスの紹介 ―Henri Salvador, « Je sais que tu sais »

まったく急なことでした。
むかしの教え子のひとりが重病だとの知らせが届きました。
教え子と言っても、もう立派なレディですから、そして僕はジェントルマンですから、あんまり女性のからだのことを根掘り葉掘り訊くわけにもいきません。
僕はなにもできずにオロオロするだけです。
彼女と同じ病気になった経験がない僕は、彼女の苦悩をたとえ想像できても、実際には共感できないので、孤独を感じ、そしてまたオロオロします。
すごく淋しい。
何もしてやれない。遠くで黙ってポツネンと待っているだけ。

昔のことを思い出します。
学生諸君が卒業論文を執筆する前、僕はこう言いました。
「とりあえず教えられることはすべて教えました。あとは君たちが書くだけです。君たちが提出期限までにどこまでやれるか、それだけです。内容が合格基準に達していなければ、不合格の判定を出さざるをえません。『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす』と言います。だから君たちを突き落とします。ではさようなら。」
そうして学生諸君が帰った後、僕はひとり研究室でオロオロするのでした。
あのときのオロオロと、いまの気持ち、何だか似ています。

でも僕の教え子たちは、たいへん優れた感受性と高い認識能力の持ち主でした。
ですから「親の心、子知らず」なんてことはまったくなく、僕のオロオロを十二分に理解してくれて、一生懸命勉強してくれました。
嬉しいような恥ずかしいような思い出です。


なんとなく静かな曲を聴いて神経を休めたいので、アンリ・サルヴァドールの« Je sais que tu sais »(僕は君が知っていることを知っている)を流しましょう。
静かなフレンチ・ポップスに癒されたいだけで、特に他意はありません。ヘンに深読みしないように。
 
Je sais que tu sais que je t'aime
(僕は君が僕が君を好きだと知っていることを知っている)
N'est-ce pas que tu le sais

(君はそれを知っているのでしょう)
Jamais je ne t'en ai fait l'aveu

(いままで僕は君に告白したことはない)
Mais je sais que tu sais tout quand même

(けれども僕は君がそれにもかかわらず知っていることを知っている)
Car tu sais lire dans mes yeux

(だって君は僕の眼を読めるのだもの)

Mon cœur est pour toi sans mystère

(僕にはなにも隠すことなどないさ)
N'est-ce pas que c'est bien vrai tu suis tous mes rêves pas à pas

(君は僕のあらゆる夢を一歩一歩、追いかけてきた、それはほんとうのことでしょう)
Tu lis en moi beaucoup mieux qu'en toi-même

(君は自分のことより僕のことが分かるんだものね)
Car tu m'aimes... et tu ne le sais pas

(だって君は僕を好きなのさ…、君はそれを知らないけれど)
 


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