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男くさすぎて訳せないフレンチ・ポップスの紹介 ―Alain Bashung, « Ma petite entreprise »


アラン・バシュング(1947-2009)はかっこいい。男ぽい。
 
僕は、男とは洋の東西を問わず、シャイな生き物だと思っています。
なかなかホンネが言えないのが、男という生き物ではないのかな、と。
だから頑張って歌にのせて勢いで本音を言う。
「愛がすべてさああ、いまこそ誓うよおお」みたいに。
 
しかしたとえ歌にのせても、本音を言えない男どもがいます。
そのひとりがアラン・バシュングなのです。
純粋すぎるのかもしれません。
セルジュ・ゲンズブールに似ています。
 
自分自身の想いを突き放すように分析して、如何に伝えるか、工夫に工夫をかさねる。
そこからスタイリッシュでスマートなスタイルが生まれます。
見方によればただの〈かっこつけしい〉の〈ひねくれもの〉かもしれませんが。
 
 
今回、ご紹介したいのは、そんなバシュングの« Ma petite entreprise »(わたしのかわいいビジネス)です。
テーマは「倦怠」だと僕は思います。
もう仕事も、愛も、うんざり。
人生に飽きたわ。
たしかに仕事もプライベートも、一見それなりに順調にまわっているけど、だけど疲れたんだ。
真実なんてどこにもなくて、嘘ばかりの人生をおくっているんだ…、みたいな。
告白と懺悔の歌。
 
しかし〈仕事〉と〈プライベート〉から成る日常生活を、何に託して表象すればよいのか。二つの主題を如何にして一つの歌に取り込むのか。
そこで彼は工夫を凝らしました。
Ma petite entreprisに、一方で文字どおり「私の小さな会社」という意味を与えつつ、他方でセクシュアリティを表象する機能を与えたのです。
つまり歌詞に二重の意味を持たせました。
 
ただ二重の意味がちゃんと分かるように歌詞を訳しますと、おそらく日本のパブリックには刺激が強すぎるだろうと思って、訳詞の掲載はとりやめました。
 
だって日本人って、美と清潔を同一視するひとたちでしょ。
そして当然のごとく純潔好き。アイドルに恋愛を禁止してよろこぶ道徳愛好家。
 
(ちなみに僕は、日本人の「かわいい」に価値を置く文化が、日本における女性の成長を阻害していると思っています。日本にもっとたくさんの「大人の女性」が欲しければ、まずは「かわいい」文化を破壊すべきでしょう。)
 
いずれにせよnoteの読者がバシュングの歌詞和訳を読んで心臓発作で倒れたらたいへんです。だから訳詞の掲載は自粛しました。
 
でも歌詞の意味が分からなくても、カッコよさは伝わるであろう名曲です。
是非ご試聴くださいませ。


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