パリ生活終了のカウントダウン(フランス恋物語90)
Les massages de Michaël
10月25日、日曜日の夜。
2週間のマルタ留学から帰ると、ミカエルから「レイコがパリにいる間に会いに行きたい。」というメールが届いていた。
私が「10月30日にパリを発つので、27・28・29日なら空いてます。」と返すと、ミカエルから驚きの返事が来た。
じゃあ、10月27日・28日の2日間パリに行くから、レイコの家に泊めてくれる?
「お・・・お泊り!?」
遂に来たか。
ミカエル・・・言う時はちゃんと言う子なんだね。
今まで2回会ってキスとハグしかしてこなかった私たちだが、その先に進みたいってこと・・・!?
でも、初恋の人そっくりの美青年で、私を純粋に愛し続けてくれるミカエルのことを私も大好きだった。
断る理由なんて何もない。
私はドキドキしながら返事を書いた。
わかった。
10月27日・28日うちに泊まりに来ていいよ。
パリでどこか行きたい所ある?
すると、ミカエルから嬉しい返事が来た。
特に行きたい所はないよ。
レイコと一緒にいられたら、僕はそれでいい。
君が行きたい所なら、どこにだって行くよ。
・・・私は天にも昇りそうな気持ちになった。
そうだ、せっかくだから、”いかにもデートスポットな所”に一緒に行ってもらおう。
私は明後日のデートが楽しみで仕方がなかった。
日本語語学学校
10月26日、月曜日。
午前中、5月から9月まで仕事をした日本語語学学校に帰国の挨拶に行った。
10月は旅行やマルタ留学でパリを空ける予定だったので、9月末に自分の受け持ちのレッスンは終わりにしてもらっていた。
しかし退職のちゃんとした挨拶はまだだったので、帰国前の今日、立ち寄る約束をしていたのだ。
まさか自分がこの職に就くとは夢にも持っていなかったので、日本語教師の資格は持っていなかった。
8月に別れた彼氏・ニコラの援助で日本語教師の資格取得のオンライン授業を受講しているが、まだまだ終わりそうにない。
こんな未熟な私を雇ってもらい、個人レッスンの生徒まで任せてもらえて、本当にいい環境に恵まれたと思う。
「Bonjour!!」
約束の時間に訪れると、校長が出迎えてくれた。
校長室に入りソファに座ると、私はここで働かせてもらったお礼を述べた。
フランス人女性の校長はニコニコしながら、私の労をねぎらってくれた。
「レイコはよくやってくれたわ。
子どもたちにも人気だったし、個人レッスンのマダム・モローは1クール終了後あなたを気に入って、2クール目も契約してくれたじゃないの?
私はそれを聞いた時、とても嬉しかったの。」
・・・あの時は、私もすごく嬉しかった。
それもこれも、校長が初めの機会を与えてくれたおかげだ。
「ありがとうございます。
少しでも貢献できたのなら嬉しいです。」
校長は残念そうに答えた。
「まだまだここで働いてもらいたかったけど、帰国するなら仕方がないわね。
あなた、日本でもこの日本語教師の仕事はするの?」
私は正直に言った。
「私はこの仕事に誇りを持っていますし、できれば日本でも日本語教師をしたいと思ってました。
しかし、現状日本では日本語学校自体少ないし、教師の待遇はあまり良くなくて、給与も低いそうです。
学校に就職することはないですが、個人的に教えることはあるかもしれないですね。」
最後に校長は笑顔で言った。
「そうなのね。
いずれにせよ、あなたの新しい門出を祝福するわ。
またパリに来ることがあれば立ち寄ってね。
私たちはいつでも待っているから。」
私たちは、最後に固い握手をして別れた。
校長室を出ると、ちょうど授業を終えたばかりの先輩教師や子どもたちと出くわした。
先輩にも退職の挨拶をし、子どもたちにも「もうすぐ帰国するから、私は今日で最後なの。」と声をかけた。
子どもたちは日本語で「レイコ先生、寂しいよ。」と言って、私に抱きついた。
私は感傷的になるのをこらえて、「私がいなくなっても、日本語の勉強を頑張ってね。」と気丈に振る舞った。
しばらくすると、他の先生方や事務職員も挨拶に出てきてくださった。
きっと校長が声をかけてくれたのだろう。
短い期間だったが、いい職場に巡りあえて本当に良かった。
私はみんなに見送られながら、日本語学校を後にした。
合気道
4月から始めたパリの合気道も、9月末で退会を申し出ていた。
1~3月お世話になったトゥールの道場ほど親密ではなかったがら、パリの合気道仲間も親切な人ばかりでいい関係を築けていたと思う。
(トゥールの合気道仲間といえば、7月にアルノー・クロエ夫妻から無事出産の連絡が届いた。私は思いつく限りの祝福の言葉を調べて送った。)
パリ生活はプライベートが忙しすぎて、最後の方は稽古をサボりがちになってしまった・・・。(もっとも、8月はバカンスでほとんど休みだったが)
合気道の最後の挨拶は、先生宛にメールを送って終わりになった。
日本で5年以上続けてきた合気道を、今年1~9月のフランス生活でも継続できたことは良かったと思う。
8月に、当時の彼氏・ニコラの家に前妻ジョセフィーヌが刃物を持って押し入った時も、合気道を習っていたおかげで冷静に対処し、無事逃げることができた。
帰国後、東京でも合気道は続けるだろう。
ただ、それまでに引っ越しや就活があるので、再開時期はまだ考えられないと思った。
美月
その夜、ミヅキちゃんが引っ越しの片付けの手伝いに来た。
お手伝いのお礼に、プリンタや体重計など、パリで購入した不要品をあげる約束もしていた。
荷造りをしながら私は聞いた。
「そういえばミヅキちゃんの名前って、どんな漢字書くんだっけ?」
もう知り合って5ケ月も経つのに、私たちはお互いの名前の漢字を聞こうともしていなかった。
「どうしたの唐突に?」
「フランスにいたら携帯はアルファベットしかないし、普段漢字を意識することってないじゃない?
でも、もうすぐ帰国するし、日本人の名前くらいちゃんと漢字で覚えておきたいと思って。」
「なるほどね。
私の名前は、”美しい月”と書いて”美月”だよ。」
私は彼女の名前の感想を言った。
「”美しい月”・・・。素敵な漢字でいいね。」
美月ちゃんは照れたように笑った。
「ありがとう。
なんか自分のキャラじゃなくて恥ずかしいんだけど、この漢字は気に入ってるよ。」
「そんなことないよ。
和風美人な美月ちゃんにすごく似合ってるよ。」
美月ちゃんはニコッと笑った。
「ありがとう。
レイコちゃんは、どんな漢字を書くの?」
「私の名前は、”王”へんに命令の”令”と、子どもの”子”で、玲子だよ。」
美月ちゃんは歓声を上げた。
「玲子・・・。カッコイイ漢字だね!!
じゃあこれからは、私もこの漢字を意識して”玲子ちゃん”って呼ぶね。」
Girls Talk
私たちがパリで会うのはこれで最後なので、我が家で晩御飯を食べながら長めの女子トークをした。
10月の初めに北イタリア旅行で出会った北原さんの話、その後のマルタ留学で好きになったルームメイトのヨハンの話などを、彼女は興味深く聞いていた。
しかし、やはり一番盛り上がったのは、明日に迫った「ミカエルとお泊りの件」だ。
予想外の展開に、美月ちゃんは興奮気味だった。
「えぇぇぇぇぇ~!! 遂にミカエルが泊まりにくるの!?
あのミカエルも、やるときゃやるんだねぇ。」
私は恥ずかしくなった。
「一緒の部屋で寝るとしても、どうなるかはその時になってみないとわからないよ。
本当に全く想像が付かないの・・・。
そんなことより、私はただ、パリにいる間にミカエルが会いにきてくれる・・・それだけですごく嬉しいの。
あぁ、フランス最後のいい思い出になりそう・・・。」
ミカエルが美しすぎて、私は彼のことを考えるとつい夢見がちになってしまう。
美月ちゃんは羨ましそうに言った。
「ミカエルの写真見たけど、本当にエドワード・ファーロングを20歳ぐらいにした感じで超美形だねぇ。
そんなカッコイイ子に、『他に彼氏ができた』と言っても愛され続けて、詩まで作ってもらって、玲子ちゃん本当に羨ましい・・・。」
私は現実的な話をした。
「でも、ミカエルと会うのは今回が最後だと思うよ。
私は遠距離恋愛をする気はないし、彼は『来年か再来年ワーホリで日本に住みたい』って言ってるけど、そんなの実現するかどうかなんてわからないじゃない?
私はあてにしてないもん。」
美月ちゃんは感心したように言った。
「相変わらず玲子ちゃんはリアリストだね。
ま、とりあえず明日と明後日楽しんできて。
報告楽しみに待ってるよ。」
私たちは長文のメールが送れるよう、パソコンのメールアドレスの交換をした。
22時頃、美月ちゃんの彼氏・マルクがプリンタなどの大荷物を運ぶために彼女を迎えにやってきた。
7月に知り合ってお付き合いを始めた二人は、ずっとラブラブのようで何よりだ。
私と美月ちゃんはフランス風のビズをして、「日本で絶対会おうね。」と約束して別れた。
明日、遂にミカエルがパリに会いに来る。
彼と一夜を共にすることに対して、私はあまり考えないようにしていた。
「まぁなんだかんだ言っても、まだ22歳の男の子だしね。」
しかし、明日会うミカエルは、私が思った以上に大人だった・・・。
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